第二百回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説

令和元年10月4日

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一 はじめに

 第二百回国会に当たり、所信を申し上げます。
 日本国憲法の下、第一回の国会、初の国会が開かれた昭和二十二年、戦争で全てを失った我が国は、いまだ、塗炭の苦しみの中にありました。
 しかし、この議場に集った先人たちのまなざしは、ただ未来にのみ向けられていた。ひたすらにこの国の未来を信じ、大きな責任感の下に議論を重ね、そして、力強い復興を成し遂げました。高度成長を実現し、平和で豊かな日本を、今を生きる私たちに引き渡してくれました。
 七十年以上にわたる先人たちの歩みに、心から敬意を表します。
 本年五月、天皇陛下が御即位されました。即位礼正殿の儀をはじめとする各式典がつつがなく、国民がこぞって寿(ことほ)ぐ中で行われるよう、内閣を挙げて準備を進めてまいります。
 昭和、平成、そして令和。七十年余りの間に、世の中は、世界は、一変しました。新しい時代を迎え、その変化のスピードはますます加速していくことでしょう。
 そうした中にあっても、先人たちから受け継いだ、我が国の平和と繁栄は、必ずや守り抜いていく。そして、新しい令和の時代にふさわしい、希望にあふれ、誇りある日本を創り上げ、次の世代へと引き渡していく。その責任を、皆さん、共に、果たしていこうではありませんか。

二 一億総活躍社会

(教育無償化)
 最大の挑戦は、急速に進む少子高齢化です。
 今月、三歳から五歳までの全ての子どもたちの幼児教育、保育の無償化が実現しました。小学校、中学校九年間の普通教育無償化以来、七十年ぶりの大改革です。来年四月からは、真に必要な子どもたちの高等教育も無償化いたします。
 子育て世代の負担を減らします。そして、子どもたちの誰もが、家庭の経済状況に関わらず、自らの夢に向かって頑張ることができる。そうした社会を創り上げます。国難とも呼ぶべき少子化に真正面から立ち向かってまいります。

(一億総活躍社会)
 十五年前、一人のALS患者の方にお会いしました。
 「人間どんな姿になろうとも、人生をエンジョイ出来る」
 全身が麻痺(ひ)していても弾くことができるギターを自ら開発。演奏会にも伺いましたが、バンド活動に打ち込んでおられます。更には、介護サービス事業の経営にも携わる。その多彩な活動ぶりを、長年、目の当たりにしてきました。
 令和になって初めての国政選挙での、舩後靖彦さんの当選を、友人として、心よりお祝い申し上げます。
 障害や難病のある方々が、仕事でも、地域でも、その個性を発揮して、いきいきと活躍できる、令和の時代を創り上げるため、国政の場で、共に、力を合わせていきたいと考えております。
 令和を迎えた今こそ、新しい国創りを進める時。これまでの発想にとらわれることなく、次なる時代を切り拓いていくべきです。
 かつて採られた施設入所政策の下、ハンセン病の患者・元患者の御家族の皆様に、極めて厳しい偏見、差別が存在したことは、厳然たる事実です。そのことを率直に認め、訴訟への参加・不参加を問わず、新たな補償の措置を早急に実施します。差別、偏見の根絶に向けて、政府一丸となって全力を尽くします。
 「みんなちがって、みんないい」
 新しい時代の日本に求められるのは、多様性であります。みんなが横並び、画一的な社会システムの在り方を、根本から見直していく必要があります。多様性を認め合い、全ての人がその個性を活かすことができる。そうした社会を創ることで、少子高齢化という大きな壁も、必ずや克服できるはずです。
 若者もお年寄りも、女性や男性も、障害や難病のある方も、更には、一度失敗した方も、誰もが、思う存分その能力を発揮できる、一億総活躍社会を、皆さん、共に、創り上げようではありませんか。

(全世代型社会保障)
 一億総活躍社会の完成に向かって、多様な学び、多様な働き方、そして多様なライフスタイルに応じて安心できる社会保障制度。三つの改革に、安倍内閣は果敢に挑戦いたします。
 六十五歳を超えて働きたい。八割の方がそう願っておられます。高齢者の皆さんの雇用は、この六年間で、新たに二百五十万人増えました。その豊富な経験や知恵は、日本社会の大きな財産です。
 意欲ある高齢者の皆さんに七十歳までの就業機会を確保します。いつまでも健康でいられるよう、予防にも重点を置いた医療や介護の充実を進めます。同一労働同一賃金によって正規・非正規の壁がなくなる中で、厚生年金の適用範囲を拡大し、老後の安心を確保します。
 年金、医療、介護、労働など社会保障全般にわたって、人生百年時代を見据えた改革を果断に進めます。令和の時代にふさわしい、子どもからお年寄りまで全ての世代が安心できる社会保障制度を、大胆に構想してまいります。

三 地方創生

(成長戦略)
 先般の年金財政検証では、アベノミクスによって支え手が五百万人増えた結果、将来の年金給付に係る所得代替率が、改善いたしました。安定した社会保障の基盤、それは、強い経済であります。
 正社員は百三十万人増えました。一人の正社員になりたい人に対し、一つ以上の正社員の仕事がある、という、雇用情勢の改善が、二年間、継続しています。
 この機を活かし、バブル崩壊により就職難で苦労した方々への、就労支援を拡大します。就職氷河期世代の皆さんの意欲、経験、能力を活かしていく。チャンスを広げることで、日本経済の次なる成長につなげてまいります。
 政権発足後、強力にコーポレートガバナンス改革を進めた結果、日本企業に対する海外からの直接投資残高は、五年連続で過去最高を更新し、十兆円以上増加しました。
 会社法を改正し、全ての大企業に社外取締役の選任を義務付けます。グローバルスタンダードに沿って、経営の透明性を一層高めることで、海外から成長の活力を取り込んでまいります。

(農産物輸出)
 ベトナムやシンガポールでは、最近、日本の粉ミルクが人気です。世界に目を向けることで、安全で安心な日本の農産物に、もっと大きな可能性が広がります。
 TPP、EUとの経済連携協定によって、牛乳や乳製品の輸出は二割以上増加しました。ヨーロッパへの牛肉輸出は三割上昇しています。
 あらゆる農産品に、世界に羽ばたくチャンスが訪れています。全国津々浦々、それぞれの地方が誇る農林水産物の輸出を更に加速します。農産品輸出拡大法を制定し、各国の輸入規制緩和に向けた働きかけをオールジャパンで進めます。

(災害に強い故郷(ふるさと)づくり)
 昨年度、福島の農産品輸出は、震災前から四割近く増加し、過去最高となりました。外交努力により規制が撤廃されたマレーシアやタイへの桃の輸出が好調です。
 これまでに三十二の国と地域で規制の完全撤廃が実現いたしました。引き続き、風評被害の払拭に全力で取り組み、東北の復興を加速してまいります。
 各省庁の縦割りを排して、徹底した現場主義を貫き、政治の責任とリーダーシップの下、福島の再生、東北の復興に取り組んでいく。これは復興・創生期間後も変わることはありません。そのための司令塔となる復興庁の後継組織を設け、復興に全力を尽くします。
 今年も、全国各地で、地震、集中豪雨、記録的な暴風などにより自然災害が相次ぎました。お亡くなりになられた方々の御冥福をお祈り申し上げるとともに、被災された全ての皆様にお見舞いを申し上げます。
 台風十五号による大規模停電では、多くの方々の生活に甚大な影響が出ました。今回の対応を徹底的に検証します。災害時における復旧の加速化、電力インフラ維持の方策について検討し、速やかに対策を講じます。
 復旧・復興を全力で支えるとともに、三年間集中の防災・減災、国土強靱(じん)化の緊急対策を着実に実行することで、災害に強い故郷(ふるさと)づくりを進めてまいります。
 各地で発生が続く豚コレラについて、ワクチン接種をはじめ、あらゆる対策を総動員して、一刻も早い終息に努めます。

(中小・小規模事業者)
 地方への外国人観光客は、この六年で四倍を超えました。観光は、地方の新たな活力です。地方でも商業地の地価が二十八年ぶりに上昇に転じるなど、地方経済に活気が生まれています。
 海外で急速にキャッシュレス決済が普及する中、日本を訪れる外国人観光客の七割が、キャッシュレスがあればもっとお金を多く使ったと回答しています。大胆なポイント還元により、キャッシュレス化を進め、インバウンド消費の拡大を通じて、全国の中小・小規模事業者の皆さんの成長へとつなげます。
 下請取引の適正化を、引き続き強力に進めます。近年の下請けいじめの実態を踏まえた新たな振興基準の遵守を大企業に徹底します。
 一度失敗すると全てを失ってしまう個人保証の慣行を断ち切ります。事業承継の際には、先代経営者と後継者からの二重取りを原則禁止するなど、次の世代に個人保証を引き継ぐことのないよう、あらゆる施策を講じてまいります。

(経済最優先)
 これからも、安倍内閣は経済最優先です。
 消費税率引上げによる影響には、引き続き十分に目配りしてまいります。教育の無償化に加え、軽減税率、プレミアム商品券の発行、更には、自動車や住宅への大胆な減税など十二分の対策を講じ、経済の大宗を占める国内消費をしっかりと下支えすることで、経済の好循環を確保してまいります。
 米中間の貿易摩擦、英国のEUからの離脱など、不透明さを増す世界経済の先行きにも、しっかりと注視してまいります。下振れリスクが顕在化する場合には、躊躇(ちゅうちょ)することなく、機動的かつ万全の対策を講じ、経済の成長軌道を確かなものとします。

四 外交・安全保障

(自由貿易の旗手)
 「下方リスクから守るために、全ての政策手段を用いる、との、我々のコミットメントを再確認する」
 大阪サミットでは、G20の全ての国が、世界の持続的な成長を実現するため、協調していくことで一致しました。
 懸案の貿易摩擦についても、自由、公正、無差別など、自由貿易の基本原則を、首脳たちと明確に確認することができました。
 我が国は、これからも、自由貿易の旗手として、自由で公正なルールに基づく経済圏を、世界へと広げてまいります。
 ASEANに中国、インド、豪州などを加えたRCEPについて、関税引下げにとどまることなく、知的財産や電子商取引など二十一世紀の経済ルールを含めた野心的なものとなるよう、交渉を進めてまいります。
 日米の貿易協定が合意に至りました。昨年九月の日米共同声明に沿って、日米双方にウィン・ウィンとなる結論を得ることができました。それでもなお残る農家の皆さんの不安にもしっかり向き合い、引き続き、生産基盤の強化など十分な対策を講じます。

(地球儀を俯瞰(ふかん)する外交)
 日米同盟を基軸としながら、我が国は、英国、フランス、豪州、インドなど基本的な価値を共有する国々と手を携え、自由で開かれたインド太平洋を実現してまいります。
 沖縄の基地負担軽減に引き続き取り組みます。普天間飛行場の全面返還に向けて、辺野古への移設を進めます。昨年度の牧港補給地区に続き、今年度末に予定されるキャンプ瑞慶覧の一部返還に向けて準備を進めます。沖縄の皆さんの心に寄り添いながら、一つひとつ、確実に結果を出してまいります。
 現下の北朝鮮情勢については、米国と緊密に連携し、国際社会と協力しながら、国民の安全確保に万全を期します。何よりも重要な拉致問題の解決に向けて、私自身が、条件を付けずに、金正恩委員長と向き合う決意です。冷静な分析の上に、あらゆるチャンスを逃すことなく、果断に行動してまいります。
 日中新時代を切り拓きます。来年の桜の咲く頃に、習近平国家主席を国賓としてお迎えし、首脳間の往来だけでなく、経済交流、青少年交流など、あらゆるレベルでの交流を拡大し、日中関係を新たな段階へ押し上げてまいります。
 北方四島での共同経済活動が動き始めました。航空機によるお墓参りは三年連続で実現し、長門合意は着実に前進しています。領土問題を解決して、平和条約を締結する。一九五六年宣言を基礎として、交渉を次の次元へと進め、日露関係の大きな可能性を開花させてまいります。
 韓国は、重要な隣国であります。国際法に基づき、国と国との約束を遵守することを求めたいと思います。

(新たな時代のルールづくり)
 海洋プラスチックごみが、国際的に大きな課題となっています。大阪サミットにおいて、新たな汚染を二〇五〇年までにゼロにすることを目指す、新しいビジョンを共有いたしました。
 その実現に向けた具体的な実施枠組みにも、G20として合意しました。新興国も含めた世界全体での取組を、日本として、これからも、後押ししてまいります。
 第四次産業革命が急速に進む時代において、新たな付加価値の源泉はデジタルデータです。
 G20サミットでは、トランプ大統領や習近平国家主席をはじめ各国首脳が参加する中、WTOの屋根の下、「大阪トラック」を立ち上げました。信頼性を確保しながら、国境を越えたデータの自由な流通を確保する。その大きな原則を掲げ、国際的なルールづくりを主導していきます。
 これからも、あらゆる分野で、新しい時代の世界のルールづくりを、日本が、力強くリードしてまいります。

五 おわりに

 「提案の進展を、全米千二百万の有色の人々が注目している。」
 百年前、米国のアフロ・アメリカン紙は、パリ講和会議における日本の提案について、こう記しました。
 一千万人もの戦死者を出した悲惨な戦争を経て、どういう世界を創っていくのか。新しい時代に向けた理想、未来を見据えた新しい原則として、日本は「人種平等」を掲げました。
 世界中に欧米の植民地が広がっていた当時、日本の提案は、各国の強い反対にさらされました。しかし、決して怯(ひる)むことはなかった。各国の代表団を前に、日本全権代表の牧野伸顕は、毅(き)然として、こう述べました。
 「困難な現状にあることは認識しているが、決して乗り越えられないものではない。」
 日本が掲げた大いなる理想は、世紀を超えて、今、国際人権規約をはじめ国際社会の基本原則となっています。
 今を生きる私たちもまた、令和の新しい時代、その先の未来を見据えながら、この国の目指す形、その理想をしっかりと掲げるべき時です。
 現状に甘んずることなく、未来を見据えながら、教育、働き方、社会保障、我が国の社会システム全般を改革していく。令和の時代の新しい国創りを、皆さん、共に、進めていこうではありませんか。
 その道しるべは、憲法です。令和の時代に、日本がどのような国を目指すのか。その理想を議論すべき場こそ、憲法審査会ではないでしょうか。私たち国会議員が二百回に及ぶその歴史の上に、しっかりと議論していく。皆さん、国民への責任を果たそうではありませんか。
 御清聴ありがとうございました。

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