襲撃直後、岸田首相は「民主主義の根幹だ」と周囲に語り、遊説を継続する意思を示したという。胆力に加え、良い意味で「鈍感力」も発揮したようだった。
千葉では、和歌山の事件に触れることなく演説を終えると、聴衆の中に入り、有権者とグータッチをした。その表情は、数時間前に命の危険にさらされたことが噓のような穏やかさだった。
千葉でのスケジュールを終えると、都内の行きつけの理髪店で髪を整えた。激動の1日の最後に、ほっとする時間をつくったのかと思ったら、そうではなかったようだ。2週間に1度理容院に行くのがルーティーンで前回の散髪は4月1日。何事もなかったかのように、予定をこなした。
危険を顧みず、「テロには屈しない」姿勢を示すことは重要だ。同時に為政者であるならば、過去の政治家の暗殺事件に社会の鬱積した「不満」が存在したことも、心に深く刻むべきだ。政治家は誰しも、社会の趨勢(すうせい)には、最大に敏感でなくてはならない。それが、最善のテロ防止策であることは、言うまでもないだろう。 (政治ジャーナリスト・安積明子