2月15日、NHKで内部向けの説明会が開かれた。それは東京五輪公式記録映画の監督に密着した「河瀬直美が見つめた東京五輪」(BS1で昨年末放送)の“字幕捏造問題”に関するもの。NHKに31年間勤めた相澤氏がその詳細をつかんだ。そこに見えた“深刻すぎる危機”とは――。
説明会は全管理職を対象にオンラインで全国の放送局を結び開かれた。仕切ったのは山内昌彦人事局長。実は私の初任地・山口での1年後輩の記者で、NHKで最も親しい友人だった。会議のテーマは、ある男性が五輪反対デモに「お金をもらって動員されている」と誤った字幕を付けて放送したことだが、報告内容は公表されているのと同じで、「担当ディレクターが問題はないと思い込み、真実に迫る姿勢が欠けていた。上司の確認にも問題があった」と結論付けている。
こんな報告に報道機関の管理職が納得するわけがない。容赦なく厳しい質問が立て続けに浴びせられた。
「事実確認以前の問題として、五輪反対デモに金をもらって参加、と放送すればどういう影響があるか考えていたのか?」
「まさにそこが問題だが、当のディレクターたちはまったく考えていなかった」
別の管理職が追及した。
「金をもらってデモに参加した、という字幕を出したディレクターの本当の意図がわからないと、再発防止につながらないのではないか。そこが報告書に書かれていなくて、いったいどういう意図であれを出したのか腑に落ちない」
山内人事局長も応じた。
「腑に落ちないのは私たちも同じ。だから何度も真意を尋ねた。しかし何度も尋ねてわかったのは、ディレクターがあの男性を出した意図は『河瀬さんが取材した先だから』というだけのことで、本当に深い意図がなかった。それならなぜモザイクまでかけて、オン(発言の音声)のとれていない話を字幕まで出して付け加えたのか? そこに整合性がないと思い、突っ込んだが、わかったのは結局『意識が希薄だった』ということ。何か裏があるんだろうと思われるだろうけど、残念ながら裏がない、というのが今の結論です」
なんという“空虚”な結論だろう。何の信念もなくただ勘違いで、こんな重大な誤った字幕を出してしまうとは。最後は正籬(まさがき)聡副会長が締めくくった。政治部出身、“青年将校”とあだ名される熱血漢で曲がったことが大嫌いだが、温かな心の持ち主だ。正籬副会長が一喝した。
「ファクトの確認、真実に迫る姿勢がNHKはこの程度なのか、これが公共メディアなのかと、そのダメージは非常に大きい。そういう目で視聴者は見ています」
「最後にお願いです。謙虚で真摯な姿勢で取材対象に向き合う、ジャーナリズムの良心を忘れない。このことを徹底してもらいたい」
NHK五輪字幕捏造説明会で露呈した“深刻すぎる危機” 相澤冬樹
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