昨季からずっと目標に掲げていた低地リンクでの36秒台をたたき出した。観客が大きく沸く景色。飛び跳ねて乗った表彰台の中央からの眺め。それらを目に焼き付けながら、小平にこみ上げるものがあった。「全て報われた」
1998年長野五輪男子500メートルで、清水宏保が日本初の金メダルを獲得してから20年。地元で開催された祭典に心を揺さぶられた小平が、日本スケート界待望の輝きをもたらした。本人が理想として口にする「究極の滑り」。それを求めて駆け抜けてきた先に、ふさわしい色のメダルが待っていた。
「スピードスケートの魅力を私の体で表現すること」。最大目標にそう掲げるほどのスケート好きだ。信州大入学後から指導を受ける結城匡啓コーチとスケート談義を交わす際には、表情が生き生きしている。オランダに独りで2年間行った後、議論が深まったのがうれしい。「いろいろな経験をし、いろいろなものを見て来たので（話していると）すごくいい発見がたくさんある」。滑りの技術、練習メニュー、調整法…。時には海外の文献を参考にしての発見が、タイムに反映されるのが面白かった。
結城コーチに教わったある話が印象に残っている。「今の男子の滑りは10年後の女子の滑り」。500メートルで比較すれば、男子は女子より約3秒速いと聞かされ、ふと思った。10年後ではなく今、どこまで迫れるのか。モチベーションが湧いてくるのが自分で分かった。
過去2度の五輪で「普通の人だったら、そんな記録ありえないでしょうと考えるところに意識を持っていかないと、五輪で勝てない」と感じた。だからこそ、ワールドカップ（W杯）では低地リンクで500メートルの36秒台の他に、1000メートルの1分11秒台など前人未到の領域を目標に設定した。目先の勝利ではない。根底に男子に勝とうとする「究極」の望みがある。
男子選手の後ろについて練習しながら、筋力や骨格といったフィジカル面の違いを、足の運び方など技術面でどう埋めようか模索した。「全ての動きがつながってきた」。スピードはさらに磨かれた。今季のW杯で、同日にレースをした男子トップとのタイム差は最小で2秒22。限界を少し打ち破れた自負がある。
究めてきた滑りを詰め込んだ。日本選手団主将として、五輪のテーマを「百花繚乱（りょうらん）」と掲げた。1000メートルの銀よりも輝く日本女子初の金。まさに大輪の花を咲かせた。（時事）