始動 第4次安倍内閣
「憲政史上最長」が見えてきた安倍晋三首相が背負う歴史的使命 論説委員・阿比留瑠比
「国民の命と幸せな暮らしを守り抜き、子供たちと日本の未来を切り拓(ひら)いていくために全力で、一丸となって取り組んでいこう」
安倍晋三首相は1日午後、首相指名選挙に先立つ自民党両院議員総会でこう強調した。この言葉は、首相が衆院選で提示した2つの国難、北朝鮮危機と少子高齢化問題に重なる。
また、「重い責任と歴史的使命」にも言及した。これは党所属議員への呼びかけであると同時に、安倍首相自身の覚悟でもあろう。
安倍首相は今回の衆院選で勝ち、総裁として5回連続で国政選挙に圧勝するという類を見ない功績を挙げた。来年9月の党総裁選での3選はかなり有力視されてきた。そうなると、再来年11月には在任期間は桂太郎元首相を上回り、憲政史上最長となる。まさに歴史に名が刻まれるのである。
かつてない長期政権は、それだけ重い歴史的使命を背負うことになる。民意が与えた時間に見合う仕事を、是が非でも成し遂げなければならない。
「今はまだ、目の前の仕事をしていくことで精いっぱいだ」
安倍首相は最近、これから何に取り組むかを周囲に問われ、こう答えた。確かに、当面はこれから来年にかけて緊迫の度を高めていくことが予想される北朝鮮問題に、しっかりと対応することが最大の課題なのは間違いない。
ただ、北朝鮮問題にひとまず何らかの決着がつけば、安倍首相が手がけるべき課題は山積している。
北朝鮮危機への対応後、果たすべき歴史的使命とは具体的に何か。安倍首相自身は、この問いに対して次のように語っている。
「憲法に自衛隊を明記する9条改正をしなくてはいけない。強い経済は国力だから、経済も活性化させたい。外交面では、膨張する中国に対し、日米同盟をもとにインドや豪州との連携を強め、立ち向かう」
自民党は衆院選で掲げた6つの重点公約の1つに、憲法改正を掲げた。そして国民は選挙での審判で、再び自民、公明両党の与党に、憲法改正の発議に必要な3分の2以上の議席を与えた。日本維新の会や希望の党の保守系議員も含め、衆参両院で改憲勢力が3分の2を確保した状況は、少なくとも再来年夏の参院選までは続く。
憲法改正は、国会の発議を受けて国民投票で是非を決める主権者たる国民の権利である。ところが、現行憲法が施行されて70年以上たった現在に至るまで、国民はただの一度もこの権利を行使できずにきた。
10年前の第1次政権当時の平成19年5月、憲法改正の手続きを定めた国民投票法を成立させた安倍首相が、自らこの戦後の宿題を片付けるのは首相の責任であり使命だといえよう。
今回の衆院選の最中、安倍首相はピンチをチャンスに変える自身の運の強さについて、このように振り返っていた。
「7月の東京都議選で大敗したことが、かえって今回の状況(自民党の優勢)を生んでいる。それで新党づくりの動きが強まり、民進党が崩壊した」
安倍首相は25年7月の参院選で大勝する直前にも、第1次政権時の蹉跌(さてつ)を前向きにとらえ、周囲にこう改憲への意欲を示していた。
「人生、やればやれるものだ。仮に6年前の参院選で適当な議席で勝って第1次政権が長続きしていた場合より、一度政権を失った今回のほうが憲法改正に必要な議席に近づく」
ならばその強運を、悲願である憲法改正に生かさない手はないだろう。
そして、国民投票で憲法改正を成し遂げたとき、連合国軍総司令部(GHQ)が草案を書き、その監視下で国会審議がなされ、その占領下で施行された憲法は初めて国民の手に取り戻せるのではないか。
いざというときには、国民のために一命をなげうつ覚悟で服務している自衛隊に対し、大半の憲法学者が違憲だと判断するようないびつな現状を、放置しておいていいわけがない。
また、天皇陛下の譲位をめぐる一連の行事が控えているからといって、忘れてはならないのが、皇族が減少する中で皇位の安定的継承をどう確保するかという課題である。
戦後、GHQの意向で皇籍離脱した旧宮家の活用を含め、さまざまな角度から検討し、詰めるべき問題は数多い。
安倍首相自身がかつて周囲に「私の政権のうちにやらないと、また先送りされる」と漏らしていたように、これは安定した長期政権にしかできないだろう。民意の負託を受けた首相には、文字通り全力で使命を果たしてほしい。(論説委員兼政治部編集委員 阿比留瑠比