スポンサーリンク

データはありません

文春:韓国人の口に合わないと言われた日本のラーメンが、ソウルでブームの理由

ここ数年、ソウルでラーメン屋をよく見かけるようになった。 2011年、博多の豚骨ラーメンの雄「一風堂」がソウルに出店し、これで韓国でも日本のラーメンが食べられると喜んだのも束の間、5年後には撤退。その…

韓国人の口に合わないと言われた日本のラーメンが、ソウルでブームの理由 辛いもの好きでも、スープにパンチを求めない文化 - 菅野 朋子

【画像】韓国で流行中のラーメン

 2011年、博多の豚骨ラーメンの雄「一風堂」がソウルに出店し、これで韓国でも日本のラーメンが食べられると喜んだのも束の間、5年後には撤退。その背景を巡っては、「ライセンス料の問題」や「味は同じでも一風堂らしさがなかった」、「脂っこい本格的な日本のラーメンの味は韓国人に親しみがなかった」などさまざまに言われたが、漠然と、「あの一風堂でもだめだったのだから、やはり日本のラーメンは韓国の人の口に合わないんだ」、そう思った。だから、今になってラーメン屋が増えているのは正直、意外だった。

 ある在来市場近くの裏通りにもラーメン屋がぽつんとできていて、期待もせずに入ったら、これがおいしくて驚いた。


一見、カフェのような外観の「いちはる」2号店(著者提供)

韓国・弘大で一番おいしいラーメン「豚人」

「いちはる」というその店の店主は日本からの進出組で、ソウルに店を開いて3年ほど。「うちはまだまだ」とかぶりを振りながら、日本からの進出組で勢いがあるのは「豚人(ぶたんちゅ)」で、そこから麺も仕入れていると言う。

「豚人」はソウル市内に5店舗を展開する“強者”だ。勢いがあるというその1号店にさっそく行ってみた。

 1号店の弘大店は、美術系の弘益大学の地下鉄駅近く。若者の街として知られ、無数の飲食店や服飾店などがぎちぎちに並ぶこの界隈は、ネットで検索しただけでもおよそ80店舗近くのラーメン屋の名があがる、ソウルのラーメン激戦区だ。

 週末の昼前に到着するとすでに満席で外には人が待っていた。ほどなく店員が出てきてメニューを渡しながら説明をしてくれる。ラーメンは4種類。ラーメンを選んだ後は、麺の種類(3種類ある)やスープの濃淡、トッピング量が選択できるという。

 前に来ていた二人組は慣れた口ぶりであっという間に注文。大学生で月に3、4度は来る常連だといい、「スープの濃さも選べるし、値段も7500ウォン(約750円)で他よりも安いし、しかも替え玉もタダ(平日の17時までのサービス)。おいしいし、サービスもいいから、来ちゃいますよね」と話していた。

 塩豚骨に縮れ麺、スープの濃淡は普通にし、ニンニクは入れずに食べたが、スープはあっさりしながらも豚骨がしっかり利いていて、麺もこしがあって、本当においしかった。

「豚人」は弘大店を2012年9月にオープンさせた後、大学街に店舗を増やし、2014年には鳴り物入りでお披露目されたロッテワールドモールにも出店。ロッテ広報に聞くと、「弘大で一番おいしい(ラーメン)店に出店を要請した」という。2015年の日韓国交正常化50周年の記念行事でもその腕を振るった。

「とにかく世界に出てみたかったんです」

「豚人」は、日本では京都の一乗寺店を皮切りに関西を中心に現在は9店舗展開していて、昨年、台湾にも進出している。

「豚人」のラーメンは中尾氏仕込み。中尾氏は、清湯(透明の澄んだスープ)からラーメンに開眼し、「ラーメンしかない」とラーメンの鬼と呼ばれた佐野実氏の弟子のもとで6年間修行を積んだ。

「豚人」は豚骨ラーメンを作る人、という意味だそうで、「清湯スープを極めた佐野さんからは世界一のスープをいただきました。そのことが、私に白湯スープ(豚骨)を極めたいと思わせてくれた」。中尾氏はそう言いながら、特に韓国に出店しようとは思っていなかったと話し、こう続けた。「とにかく世界に出てみたかったんです」。

韓国で人気の出るラーメンは作れるのか?

 韓国の「豚人」を経営するのは、「フロアーチル」社で、同社の松本祐佳社長は、仕事で韓国と接点ができたのをきっかけに韓国に語学留学。その後、ビジネスを立ち上げようと動いていた時に人を介して中尾氏と知り合った。「豚人」はその仲介者との共同出資だ。ただ、話が持ちかけられた時は実はラーメン屋は気乗りがしなかったそうだ。松本社長の話。

「飲食店は初めてでしたし、韓国ではラーメンは人気がないと思っていましたから。それでも豚人のラーメンを食べに行きました。これはおいしい! そう思いましたが、それでも、『こんな脂っこくて塩っぱいのは韓国では合わない』と思い、韓国進出の話は断ったんです」

 ところが、しばらくして、中尾氏から、「韓国の人も好きになるラーメンを開発した」と連絡が来たという。

「韓国に一度も行ったことがないと言っていたのに開発できるわけがない(笑)。そんなことは重々承知していたのですが(笑)、中尾さんなら成功するまでとことん一緒にやって行けそうだと思って、連絡をいただいた後すぐに一緒に韓国進出することを決めました」(同前)

“日本のラーメン”として韓国に受け入れられるために

 そうして弘大店をオープンさせ、初日は、松本社長の知り合いなどをかき集めて100人ほどの客が入った。話だけ聞けば出足は上々に思えるが、問題はそこからだったと中尾氏が苦笑する。

「100人のうち6、7割ほどの人がラーメンを残して帰って行ったんです。あー、これはまずい、これではだめだと頭を抱えました」

 予想通り、すぐに閑古鳥が鳴くような状況に。ともかく、ひたすら、スープ作りに没頭し、「脂っこく塩っぱいものが苦手な韓国の方々のために脂の量、塩分を日本の方にも満足していただけるぎりぎりまで抑えました」。ようやく今の味に落ち着いた2カ月後から客の入りは上向きとなり、行列ができるほどの繁盛店へと変貌した。

 店の損益分岐点は120~130人だそうだが、現在は1日平均280~300人ほどが訪れていて、年の売り上げは製麺販売も含めておよそ50億ウォン弱(約5億円弱)あるという。

自分好みで味を変えられるのが韓国流

 韓国と日本の味の決定的な違いについて中尾氏はこう話す。

「日本ではすでに味つけされているスープを食すことが普通ですが、韓国の方はスープにご自身で塩を入れながら味を調えるぐらいに塩分に敏感です。そういった意味でも、韓国の方からは、辛いものではない限り、スープに味としてのパンチは求められていないように思います。一方、日本は一口めに旨いと感じるパンチを求められているかと。塩分と旨味の融合は日本のほうが求められていると思いますね」

 韓国というと、キムチのイメージが強く、辛くて塩っぱい味をイメージしがちだが、いわれてみれば、牛肉や骨を煮込んだソルロンタンやコムタンのような辛みのないスープものは店でも味つけはされていない。顧客が卓上に決まって置いてある塩やコショウなどで自分好みの味にして食べている。

 中尾氏に大手のラーメン店が撤退したり、開店してもすぐに店を畳むラーメン屋も多い中、「豚人」が健闘しているワケを問うと、「韓国ではラーメンレストランは求められていないように思います。味が決め手ではなく、豚人が生き残れているのは“ラーメン屋“にこだわっているからかもしれません」。

「豚人」の人気が広まり始めると、「フロアーチル」社にはフランチャイズの問い合わせが殺到したという。「社員がとても大事な存在なので、どうしても直営にこだわってしまいます」と松本社長は話していた。

「すし」に負けないラーメン 食は人をつなぐ

 後日、韓国の若者に人気だという別のラーメン屋にも行ってみた。「日本のラーメンの味が忘れられなくて」日本のラーメン屋で修行したという韓国人の店主が切り盛りする店で、店の外観も日本のラーメン屋のよう。週末の昼過ぎだったが、ここにも行列が。店内に入ると、まるで日本の店のように元気よく、「オソオセヨー(いらっしゃいませ)」という声が飛んできた。店員のてきぱき感はやはり日本の店を彷彿とさせる。

 メニューは普通の豚骨と辛めのスープものの2種類で、麺も2種類、スープはその濃淡を3種類から選べるようになっていた。カウンターの隣の席には自転車のツーリングの途中で寄ったという会社員6人組が座った。知り合いに勧められてきたそうで、「日本にもよく遊びに行くんですよ。日本はとにかく食べ物がおいしいですね。ラーメンは日本の本格的な豚骨も好きです」(30代半ば男性、会社員)と話していた。

 ここのラーメンもおいしかった。ただ、好みもあるだろうが、韓国の人が好むニンニクがかなり利いていた。

 食は人をつなぐというけれど、韓国でのラーメンの広がりに「すし」にも負けないグローバルな広がりを感じるこの頃。これもひとえに、異国で奮闘する料理人や経営者あってこそだとしみじみ思いながら今日もソウルでラーメンを食べている。

(菅野 朋子)

Source: 文春砲

スポンサーリンク




ブログをメールで購読

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。

2,402人の購読者に加わりましょう

この記事が気に入ったらフォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事