最悪といわれる日韓関係の不思議は、韓国側では大統領がしきりに「親日清算」を公言し、国会議長が「天皇謝罪要求」をぶつなど反日言説が乱舞し、日本側では反韓感情の高まりから対韓制裁論や国交断絶論まで語られるなか、観光など双方の人的往来は史上初めて1千万人を超すほど盛況をきわめていることだ。この不思議を解くため月刊「文藝春秋」4月号で、元駐韓大使の寺田輝介氏、韓国富士ゼロックス元会長の高杉暢也氏、元陸将の福山隆氏、新潟県立大教授の浅羽祐樹氏という各界の“韓国経験者”に集まってもらって現状と展望を議論した(「『日韓断交』完全シミュレーション」)。
日本人の鬱憤やスカッとしたい気分
この座談会を行った大きな動機は、メディアをはじめ日本の世論に出ている「日本を非難ばかりしている韓国とはもう付き合うな」「いつも日本の足を引っ張る韓国とは関係を絶つべきだ」といった声の当否を検証することだった。
こうした声は、韓国から連発される不愉快な反日ニュースに接している日本世論の正直な感情の表れである。ソウルから見ていても韓国をめぐる日本人の鬱憤やスカッとしたい気分はよく分かる。だが、隣国との関係のあり方を感情だけで決めるわけにはいかない。
結局、安全保障や外交、経済、文化など国益を前提に冷静に計算した場合、制裁や断交は現実的ではないし、とくに現在の日本の国際的立ち位置からは「無理」ということになる。すると、「日本は損を覚悟してでも韓国に断固対処すべき」という声が出るが、そうした覚悟論あるいは強硬論は「感情」である。対外関係で必要なのはスカッとするカッコいい感情論ではなく、面白くない冷静な計算である。
「韓国討つべし!」と感情が高ぶる歴史的背景
記者として韓国あるいは日韓関係との付き合いは半世紀近くになるが、韓国人が日本に対し特殊な感情を持っているように、日本人も韓国に対しては他の国相手にはない、興奮に似た感情の表出があるように思う。たとえば中国相手に安保や外交、経済などでひどいことがあっても、反中・嫌中感情あるいはヘイトスピーチは韓国ほど問題にならない。
その理由は、韓国との歴史的、文化的あるいは人種的な「近親関係からくるDNA(遺伝子?)のせい」と言うしかないが、お互いに引越しできない地理的・地政学的関係からくる関係の深さと利害関係の重なりが、そうさせるのだ。従って、“対韓不愉快”については、興奮ではなく「隣国同士はよくケンカするもの」といった地球俯瞰的な達観も必要だろう。