「イラク」。なんて禍々しい響きなのだろう。イラクと聞いて思い出されるのは、サダム・フセイン、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、化学兵器によるクルド人虐殺、内戦、アルカイダ、イスラム国(IS)、自爆テロ、拉致、処刑、難民……。
不思議なことに「イラク」という国名が一体どこから来たのかははっきりしないのだが、世界最古の都市とされる「ウルク」に由来するという説もある。ウルクは今から5000年以上前にユーフラテス川のほとりで栄えた。人類史上初の文明、いわゆるメソポタミア文明だ(初期のメソポタミア文明は、担い手がシュメール人だったので、シュメール文明とも呼ばれる)。
■イラクへの想いは止んだことがない
日本の自衛隊が派遣されたサマワという町の郊外に今もウルク(ワラカ)の遺跡がある。ウルクとその周辺地域では文字が創られ、灌漑農業が開発され、学校や役場が始まり、土地の売買や賃借が行われ、パンやビールが生み出された。酒を飲みながら男と「立ちバック」で交わる粋な女性のレリーフすら発見されている。現代文明はウルクが源であるといっても過言ではない。
イラクとウルクが醸すこの両極端なイメージはしかし、現在のイラク人の生活やリアルな状況を何一つ語ってくれない。だからこそ自分で行って、この目で見てみたいと思うのは人情だろう。だが、いかんせん、外国人が行くには難しい国だ。それは20年前から今に至るまで変わらない。
実は、私は1990年代半ばにイラクに長期滞在しようと考えていた。イラク人を見つけて友だちになり、アラビア語を習っていたこともある。だが、うまい方策を思いつけず計画は頓挫してしまった。最近ではアルカイダやイスラム国が登場し、ひじょうに危険とされているが、イラクへの想いは止んだことがない。