ドストエフスキーは自分の思想の実現のために老婆を殺めた若者を描き、カミュは「太陽のせい」と殺人犯に言わしめた。だが、さしもの文学者たちも、この男の殺人の動機に考えを及ばすことはできなかったかもしれない。東京都葛飾区の女子大生、菊池捺未(なつみ)さん(当時18)の遺体を茨城県神栖市に遺棄した容疑で警視庁捜査一課に逮捕された、広瀬晃一容疑者(35)だ。
この事件、当初はメディアによる情報の“拡散”で立件が危ぶまれたという。警視庁担当記者が解説する。
「菊池さんが行方不明になったのは昨年11月のことですが、各社は沈黙を守っていました。報道が過熱した直接のきっかけは読売新聞の一報です。読売は広瀬の任意聴取のタイミングで報道。事件の行方を見守っていた各社も報道に踏み切り、警視庁捜査一課の小林敦課長は『捜査妨害だ』と激怒していた。広瀬は任意聴取にも最初は関与を否定し続け、認めたのは報道から1週間後。ヒヤヒヤしましたが、供述通り遺体が出るなどその後の捜査は順調で、殺人容疑で再逮捕する方針です」