『I beg you』(Aimer)/『Defiance』(雨宮天[そら])
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総合的にいって全く不案内といっていいかもしれぬ分野のアニメとはいえ、たまさか耳にすることもある主題歌たちに、何らかの共通性のようなものを感じぬわけでもない。
抽象的ないい回しだが、俺には楽曲から発せられる“温度や密度”がどこかしら似ているようにも思えてならないのである。高いか低いかといえば当然高い。俗に“アニソン”と呼ばれるジャンルの音に、対応するアニメ作品の有無にかかわらず、これまであまりヌルかったりユルユルな印象のものはなかった気もするのだがどうだろう?
てな感じで、今週はアニソン周辺最新作聴き比べである。あくまで楽曲に限っての感想にとどまるが、いま述べた温度や密度とは、無論作曲や歌詞世界の傾向のことではある。ただそれは「甘さと辛さ」のように並列で語られる性質のパラメータではない。温度——様々な音楽作品から熱さや冷たさを感じることはあると思う——と違って“密度”は作品からは認識しづらい。というのもこちらはむしろ“作家力”に関わる話だからだ。
ひらったく申して私は、アニメ業界を、プロフェッショナル意識の強い職場/共同体、いってみれば“アルチザン集落”なのだと思って見てきた。そしてまたアニメ音楽はそのヒエラルキーのなかの一翼? 下流? ポジションはともかく、どこかに組み込まれる要素だろうとも考えるものなのだが、いずれにせよここでの音楽家の立場は請け負いである。そして請け負い仕事には、必ず求められるポイントがある。
アニソンとは、構造的には、プロ意識の高い作家がコンペなどでワザを競い合うジャンルであることに間違いはあるまい。そのあたりのリスナー的味わいを語れば、ひとつは、述べた意での技術職としてのしたたかさや“芸の細かさ”の聴き分けなのやもしれぬ。
それを俺は“密度”といったのだが、いずれにせよ今週の二曲とも、そうした視点で眺めたとき、レベルは高い。
素人にはなかなか醸し出せぬ“手堅さ”を魅力に昇華させた『I beg you』の、もっともらし〜いオリエンタル風味の添え具合などなど、そのしたたかなスタンスの取り方には、風格さえ感じてしまう。
作詞作曲の梶浦由記のそんな堂々ぶりに限らず、この界隈の音楽に携わる人たちを見渡すと、ますます女性の力の増してきていることに、あらためて時の移り変わりの無常も実感したりはするが、それにしても今回、最新のアニソンを聴きながら面白いと思ったのは、その一番奥に貫かれた美学の未だ健在なことだ。
冒頭に温度のことを書いたが、アニソンは、こうしてどこまで大人向けのものにカタチを変えていこうと、ある種原点ともいえる、初期少年マンガ主題歌の持つ熱気を、作風のどこかに未だ気配としてたたえているのである。
雨宮天。
これぞ、そうした伝統を感じさせるという意味では、逸品といえる“アニソン”だ。
今週のインフルエンサー「先日、オレもインフルエンザにかかってさ、39.5度の熱が出て、すぐ医者に行ったんだけど、最新の薬を出してくれて一晩で治っちゃったんだよね。診察と薬代で締めて3,800円。知人は予防注射で4,000円払ったと聞いていたから、予防するより薬のほうが安いじゃん」と近田春夫氏。「この読者だけのお得な話だよ!(笑)」