3月23日(土)に開幕する平成最後の春のセンバツ高校野球――。その入場行進曲が、槇原敬之さん作詞作曲の「世界に一つだけの花」「どんなときも。」に決まった。
「いきものがかり」のリーダー・水野良樹さんもまた、これら平成を象徴する名曲を愛してやまないひとりだ。水野さんはことに「世界に一つだけの花」に関心をもち、“なぜこの楽曲が多くの人のもとへ届いたのか”を考えつづけてきたという。
2018年末、水野さんは槇原さんのスタジオを訪ね、長年考えつづけてきた問いや、楽曲への思いを、槇原さんに率直にぶつけた(その模様は、「文藝春秋」2月号に「『世界に一つだけの花』が教えてくれた」として掲載されている)。
対談を終えた水野さんが、あらためて「世界に一つだけの花」への思いを綴った。
◆◆◆
「めちゃくちゃ羨ましいじゃないか!」
数年前のポール・マッカートニー来日公演。会場は東京ドーム。
70代を迎えてもなお、瑞々しいという形容詞が似合うほどの現役感。かといって新曲ばかりの演奏ではなく、ポピュラーミュージックの教科書があったら1ページ目の冒頭にタイトルが書き込まれるような名曲たちが次々と歌われていくサービス精神溢れるセットリスト。おもむろにピアノ椅子に腰掛け、彼が弾き始めたのは「レット・イット・ビー」のイントロだった。会場を埋め尽くす5万人の観客。そのひとりひとりの身体がイントロを耳にした瞬間にわずかに強張り、すぐさま熱く、そして静かな興奮に包まれていくのを感じた。自分もそのひとりだ。だが、昂ぶる心のなかで自分はひとつだけ違うことを考えていた。歴史的な偉人を前にしておこがましいにも程があるが無邪気な憧れを話していると思って笑って聞いてほしい。
「ああ、このとんでもない名曲を“自分の曲だ!”って言えるのは地球上でこのひとしかいないのか! なんだよ、めちゃくちゃ羨ましいじゃないか!」
ソングライターとして、嫉妬をしたのだ。
素晴らしい名曲は星の数ほどあって、そしてそれを書いた作者がその向こうにいる。まさかポール・マッカートニーが「この曲、俺が書いたんだぜ! どうだ、すごいだろ!」なんてわかりやすい自慢をするわけがないし、そんな自慢をしてみたいから嫉妬しているというわけでもない。ただ、あの素敵なメロディが生まれてきた瞬間の感情を知っているのは彼しかいないし、そのメロディが世界中のひとに聴かれ、歌われ、愛され、数十年を経て歴史となっていく一連を、作り手という立場で眺めることができたのは彼しかいない。その目に見えていた光景とはいったいどんなものだったのか。そこに憧れと、畏怖が、ある。
日本にも歴史に刻まれていった名曲たちがたくさんある。そのなかにおいても自分たちの世代が青春時代を過ごした平成という時代を象徴する楽曲がある。