「こちらにミスがあったことは反省しています。9月の段階で糟谷(敏秀)官房長が、正式な書類ではないにせよ、高額報酬を記したオファーレターを渡してしまった。経産省が高額報酬を確約したと思われたことは我々の失態。ですから、私と事務次官が給与を返納し、責任者としてけじめをつけたのです」
昨年12月28日、田中正明前社長をはじめ、産業革新投資機構(以下、JIC)の民間出身の取締役全員が退任した。JICは2兆円超の資産を運用する日本最大の官民ファンドである。この異常事態を受け、本誌の取材にこう語ったのは、JICを所管する世耕弘成経済産業大臣(56)だ。
騒動の発端となったのは代表取締役の報酬問題だった。当初、経産省は最大で1億2千万円となる報酬額を提示したが、その後、一転、白紙撤回したことで混乱を招いた。
「ただし、こちらにも言い分はあります。田中社長は記者会見で『1円でも働きにきた』と話していましたが、そんなわけはない。報酬額が発端なのは間違いありません。いくらなんでも最大で1億2千万円は高すぎます、と説明しましたが、納得して頂けませんでした」
3月末までに立て直す
「そもそも、JICの経営陣は個別の投資判断をしません。ファンドに方針を示し、ファンドマネージャーが適切に投資をしているかを監督する立場です。いわばプロ野球の監督で、監督に四番打者と同じ給料を払う球団があるでしょうか。世界的な投資家をファンドマネージャーとして連れてくれば、その方への報酬として1億、2億円はもしかしてありうるかもしれないが、今回はそこまでの議論に至りませんでした」
世耕氏は、田中前社長が昨年11月24日に開かれた経産省との交渉の場で声を荒らげて席を立ったことについても「ショックだった」と不満を漏らした。
「JICにとって国は株主。株主に対して、紙を叩きつけて席を蹴る取締役がどこの会社にいるでしょうか」
組織の立て直しは3月末までに行うという。
「今回の失敗は、まず役員を決め、その後に報酬体系やガバナンスなど大きな絵を描こうとした点にある。今後はまず外部の専門家を招き、詳細な制度設計を行います。その上で、それに納得してもらえる役員に来てもらう。糟谷官房長をこの対応に専念させ、3月末までに新しい役員を決めて、組織を作り直したいと思っています」
発売中の「文藝春秋」2月号で、世耕大臣は「2019年は『キャッシュレス元年』になる」と題する所信を発表。JIC問題に関する見解のほか、世耕氏自身が陣頭に立って進めているキャッシュレス決済の普及について語っている。