スポンサーリンク

データはありません

文春:『シシリアン・ゴースト・ストーリー』桜庭一樹のシネマ桜吹雪

 酔っ払い運転による交通事故や、

無差別殺人など、あまりにも理不尽な事件が、

ときおり起こる。そんなニュースに接するたび、

わたしは、亡くなった被害者のお名前やお顔、

人となりなどを、つい知りたくなってしまう。…

 

酔っ払い運転による交通事故や、無差別殺人など、あまりにも理不尽な事件が、ときおり起こる。そんなニュースに接するたび、わたしは、亡くなった被害者のお名前やお顔、人となりなどを、つい知りたくなってしまう。

そういうのはプライバシーの侵害だ、よくないことだという批判は、もちろん多い。自分でも下世話だなぁと恥ずかしくなる。

[ad#ad2]

でも。内心、それだけじゃないのに、という気持ちもある。

わたしは、生身の誰かが、“被害者一名”というある種の記号に変えられてしまうのが、恐いのだ。もし自分が被害者になったとしても、名前や経歴や、どんな人生を送ってきたかを、見知らぬ人たちに知ってほしい、実存に迫ってほしいと願う。

……これって、変かな?

そうして、死者が記号的存在から具体になったとき、本当に悲しみ、悼むことができる。そんな思いもあって、つい報道を追ってしまう……。

さて。この映画は、一九九三年にイタリアで起こった殺人事件をもとにした青春ダークファンタジーなのだ。

ある日、十三歳の少年ジュゼッペが村から忽然と姿を消した。父親を脅すため、マフィアが誘拐したのだ。少年は監禁されて衰弱し……。

監督コンビは事件が起きたシチリアの出身者。七百七十九日後に殺され、遺体を硝酸で溶かされた被害者のことが、ずっと忘れられなかったのだという。

映画の終盤。作り手はフィクションだけにできるミラクルな方法で創作と現実の壁を超え、“被害者一名”の顔と独特の眼差しを観客に提示する。少年の姿はゴーストとなりスクリーンに蘇る。これを観た人たちは、実際の事件も、少年の存在も、けっして忘れないだろうなぁと、わたしは思った。

フィクションは、ジャーナリズムとは違う形で、現実の悲劇とこんなふうにコミットできたのか。そんな驚きとともに観終わりました。

©2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM

INFORMATION

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
12月22日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
http://sicilian-movie.com/

Source: 文春砲

スポンサーリンク




ブログをメールで購読

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。

2,402人の購読者に加わりましょう

この記事が気に入ったらフォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事