LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案をめぐり、広島で19日開幕するG7(先進7カ国)首脳会議前の成立を求める声に対し、女性団体や性同一性障害者らの団体が法案反対の記者会見を開くなど、行き過ぎた法整備によるリスクへの懸念が強まっている。自民党は8日、合同会議で法案について議論した。幹部側は問題視されている「性自認」「差別は許されない」との表現を、「性同一性」「不当な差別はあってはならない」に修正する案を提示したが、批判は根強く継続審議になった。この問題に取り組んできた、片山さつき元女性活躍担当相(自民党)が、夕刊フジのインタビューに応じ、国民の理解や合意形成が進まないなかでの拙速な法制化に、強い警鐘を鳴らした。
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「LGBTなどをめぐっては、日本の常識や、『最大多数の最大幸福』の原則に基づかず、LGBT当事者らの気持ちに寄り添った議論もなされていなかった。当事者を無視し、一方に偏ったイデオロギーなどに基づく拙速な法制化は極めて危険だ」
片山氏は、こう指摘した。
LGBT理解増進法案は2021年、与野党の実務者間で合意したが、「『性自認』を理由とする差別は許されない」などの文言が加わり賛否が割れた。片山氏は続ける。
「そもそも、客観的基準がない『性自認』や、定義があいまいな『差別』を明文化すれば、訴訟が相次いだり、政府や自治体を混乱に陥らせたりするリスクがある」
どういうことか。片山氏は女性用トイレや女湯、女子更衣室などを、『私は女性』と主張する性自認の男性が利用する状況を想定して解説する。
「女性や、性転換で女性になった人にとって、無防備になるトイレは襲われるリスクがある。そもそも、のぞき見や痴漢行為も女性の尊厳を侵すものだ。安全確保は、いわば『生存権』だ。一方、生物学的な男性で女性を自認する人が、女性トイレを使いたいというのは『自由権』にあたる。これは、個人の尊厳の基準だ。『自由権』よりも、生命や財産に直結するリスクを抱えた弱者の『生存権』が優先されるのは当然だろう」
性別に関係なく、さまざまな設備を利用可能にすべきという〝主張〟は幅広い分野に及ぶ。これに対する女性やLGBT当事者らの懸念は保守派に届けられ、法案の国会提出は見送られてきた。
一方、推進派は「法案の遅れは欧米に恥ずかしい」「G7前に成立させるべきだ」と主張する。
片山氏は「根拠のない主張だ」といい、次のように解説する。
「性自認に関する立法は、G7ではカナダだけにしかない。日本はまったく遅れていない。日本国の最高法規である憲法には、『すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない』(14条)と明記されている。日本だけに性自認の差別を禁じた法律がないという一部の指摘は『明確な誤りである』と衆院法制局も認めた。そもそも、このような各国で決めるべき思想信条の問題と、ウクライナ侵略や台湾海峡などの安全保障問題がテーマとなるG7広島サミットを天秤にかけるのは、まったく間違いだ。極めて内政干渉的で日本にとって侮辱的でもある」
こうしたなか、性同一性障害者らでつくる「性別不合当事者の会」、女性の権利保護を目指す「女性スペースを守る会」など4団体は1日、東京都内の日本記者クラブで法案反対の記者会見を開いた。
「当事者たちが法案に『性自認』の文言を入れることに疑問を呈した。生物学的な男性で女性を自認する人が、女性スペースに入るリスクを指摘した。いわゆるストレートの女性、男性とともに、LGBT当事者から『差別を特出しすべきでない』との声が上がっていることは、無視できない重要な事実といえる」
今後、どのような議論を進めるべきなのか。
「省庁を対象に過去、LGBTへの差別など人権侵犯事件がなかったか調査したが、実害例は少なかった。人権擁護の行政審判でも毎年、7000~8000件の案件のうち、LGBTに関するものは0・2%に満たない。また私が女性活躍担当相のとき、女性活躍推進法を改正したが、その際の附帯決議に加えたのは本人の了解を得ず性的志向を暴露する『アウティング』への対応だけで、他のLGBT問題については野党からも指摘がなかった。本当に困っている事例があるというなら、政府が1年ほどかけて徹底的に問題事案の洗い出しを行い、その救済に法律が必要なら、内閣の法案として政府が出すべきだ。ただ、それをやってもなお、十分な『立法事実』は出てこないだろう」