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『大宰府主婦暴行死事件』女帝 獄中死に“元交際相手”は

『大宰府主婦暴行死事件』主犯の「女帝」獄中死に「逃げてんじゃねぇよ」 “元交際相手”の共犯が手紙で初めて明かした複雑な胸中

国内 社会

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山本美幸、岸颯

獄中死した“女帝”こと山本美幸元受刑者(左)と、岸颯受刑者(他の写真を見る

 

凄惨極まりない犯行

2019年に福岡・太宰府市で発生した、いわゆる「太宰府主婦暴行死事件」――。傷害致死などの罪に問われ、懲役22年の判決が確定していた山本美幸受刑者が亡くなっていたことが報じられたのは、昨年11月。43歳だった。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】

 事件で犠牲になったのは佐賀県鳥栖市に住んでいた高畑瑠美さん(36=当時=)。山本受刑者は、公判で元交際相手と呼ばれ、事件当時に同居していた岸颯(つばさ)受刑者(27)とともに、高畑さんを太宰府市の自宅アパートなどに監禁。激しい暴行を加えて外傷性ショックで死亡させた。

高畑さんを監禁したのは金を搾取するためだった。高畑さんの兄の借金を、高畑さんに肩代わりするよう求めたことがきっかけとなり、以降、山本元受刑者は、彼女にたびたび金銭を要求するようになる。18年ごろからは、高畑さんを引き連れてホストクラブに通い始め、多額の料金を立て替え払いさせたことで借金は莫大な金額に膨れ上がった。さらに、暴力団組員を名乗る知人まで使って高畑さんに圧力をかけ、再三にわたって金銭をせびっていたのだ。

ホスト漬けにされた挙げ句、不当に借金を負わされた高畑さんは、金策のため実家から借金を重ねるなどして孤立を深めていく。同時に、山本元受刑者も高畑さんとその家族が疎遠になるよう仕向けていった。高畑さんは山本元受刑者から大量の食事を強要され、風呂にも入れず、奇抜な化粧をさせられ、ホストクラブでも山本元受刑者の指示のもと、ホストに抱きつくなどの不本意な行動を取らされていたという。

被害者が死亡するに至った犯行も凄惨極まりないものだった。山本元受刑者は高畑さんを木刀で何度となく殴りつけるなど、激しい暴行を加えていたのだ。

全く知らなかったので、正直かなり驚いています……

こうした行状が高畑さんの死により明るみに出たことで、山本元受刑者は岸受刑者とともに逮捕され、21年12月に福岡高裁で懲役22年の判決が確定した。そして、<太宰府の女帝>なる異名もあった山本元受刑者の死亡が報じられたのは昨年11月。しかし実際に命を落としたのは、昨年8月のことだったという。収容されていた佐賀県の麓刑務所で昨夏、新型コロナウイルスの集団感染が発生し、山本元受刑者も感染。体調を崩したまま死亡したのだった。

受刑生活が始まってから1年も経たないうち、この世を去った山本元受刑者。この事実に複雑な思いを抱えている人物がいる。事件の共犯として懲役15年の判決が確定し、現在も服役中の岸受刑者だ。筆者とは文通を始めて2年になる。

山本元受刑者死亡の報を受け、すぐにその旨を書き送ったところ、直後の返信には<全く知らなかったので、正直かなり驚いています……>と、死後3ヵ月が経っても、その事実を知らされていなかったことが明かされていた。それから2週間後に改めて届いた手紙には、未だ混乱する様子が見てとれた。

<最初、高橋さんからのお手紙内に『山本美幸さんが亡くなった』と書いているのを目にした時は、心が一度に受け止められるストレスの容量を超えた為、脳が目から入る情報を拒否したのか目線が文字の上を素通りするだけで読むことが出来ず……。何度も見返すことで何とかその意味を理解することが出来ました>

胸に穴が空いた様な悲しみ

複雑な心境を綴った岸受刑者の手紙_1

複雑な心境を綴った岸受刑者の手紙(他の写真を見る

 

山本元受刑者が住んでいた太宰府のアパートでは、高畑さんの前にも別の女性Aさんが不審な死を遂げている。これは事件化されていない。岸受刑者は、仕事先でたまたま出会ったAさんに連絡先を伝えたところ、なぜか山本元受刑者から電話があり、食事に誘われたという。これが2人の関係の始まりだった。それ以降、岸受刑者もAさんと山本元受刑者の住むアパートに同居することになる。

岸受刑者自身は山本元受刑者と恋愛関係にあったことを否定している。とはいえ、長年生活を共にしたうえ、同じ事件で有罪判決を受けた者として、複雑な思いがあるようだ。

<約4年間生活する中で本当に様々なことがあり、正直私は山本さんに対し『早く死んでくれないかな……そうすれば、周りの人がどれだけ助かることか……。そして、死ぬなら出来る限り苦しんでほしい』とまで願い、今回の事件によりその気持ちは、より一層強くなりました。なので、今回の山本さんが亡くなった知らせは私にとって嬉ばしい瞬間のはずなのですが、最初に感じたのは、何ともいえない悲しみでした>

<最も忌むべき存在である山本さんが亡くなったことに対し、最初に悲しいと感じるとは思っていなかったので、正直かなり驚きました。ですが、一言で『悲しい』といっても、大切な人やペットを亡くした時に感じる胸の内側をえぐられた様な『涙の出る悲しみ』ではなく、喪失感のように『胸に穴が空いた様な悲しみ』に近く、数日経った今でも、フワフワやモヤモヤといった言語化するのが難しい様々な感情に包まれています>

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複雑な心境を綴った岸受刑者の手紙_2

複雑な心境を綴った岸受刑者の手紙(他の写真を見る

 

「私の遺影用に……」

受刑生活を送る岸受刑者には、ひとつ目標があった。それは“山本元受刑者より1日でも早く出所できるよう努力する”ことだった。だが、いきなりその目標を失ったことで、<正直、ちょっとキツイですね>と、こぼす。

その一方、<これから送る長い受刑生活の中で、自らが犯した罪の重さを知って反省し、被害者や遺族の方々に償いをし、その上で自ら伝えるべき言葉があるだろう。死んで逃げてんじゃねえよ>と、強い怒りも感じている。そして最後にこう振り返った。

<生き急ぐように他人にかける迷惑を一切気にしない無茶苦茶な生き方をし、どこか生きるのを諦めたようにあっけなく死ぬ。最後の最後まで自分勝手な人で、残された者達からすると迷惑極まりない話ですが、私個人としては……そんな方法でしか自分を表現できない不器用な人生を送った山本さんを少し憐れに思います>

<それに、逮捕される3ヶ月程前には『私の遺影用に』と言いながら息子に写真を送ったりしていたので、もしかしたら、自分の死期が分かっていたのかもしれませんね。やり残したことを一気にやっている感じがしていましたし……。ただ、そういうことは自分のお金でやるべきなんですけどね>

複雑な心境を綴った岸受刑者の手紙_3

複雑な心境を綴った岸受刑者の手紙(他の写真を見る

 

福岡高等・地方・簡易裁判所

福岡高等・地方・簡易裁判所(他の写真を見る

 

「太宰府主婦暴行死事件」の遺体発見現場

遺体が発見された現場(他の写真を見る

 

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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