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世界に激震!世界のトヨタが日本を諦める⁉豊田章夫のメッセージ!

トヨタのタイ戦略はどうなるか 日本政府の然るべき人たちに「伝えたい」池田直渡「週刊モータージャーナル」

 

2023年01月03日 10時00分 公開

前編では、トヨタのカーボンニュートラル戦略を理解しようともせず、実績にも目を瞑(つむ)り続けて、CO2削減マイナス23%の日本メソッドを訴求しそこねた無策な日本政府に愛想を尽かしたトヨタが、理解者であるタイを軸にASEANのCO2削減に力を入れ始めた話を書いた。

では、なぜタイでは、それが可能なのか? そこはやはりCP(チャロン・ポカパン)グループの凄(すご)さということになる。CPの主要事業の1つに養鶏がある。しかしそこは途上国、海外への食品輸出に関して、衛生や安全規制の不行き届きを疑われ、なかなか輸出が増えなかった時代があった。

CPはそのイメージを覆すことに尽力して、先進国をしのぐ管理体制を整えた。安全、安心。そして環境貢献。そのために彼らは食品の安全性のトレーサビリティやオープン化のみならず、莫大な養鶏場の鶏糞を集積し、ドームに集めて発酵させ、メタンガスを取り出し、それで施設を運用するための電力を賄っている。

左から、タイCPグループのDhanin Chearavanont上級会長とトヨタの豊田章男社長(出典:トヨタ自動車)

これにはトヨタのエンジニアも驚いたという。メタンまでできていれば、水素に変換するのは極めてたやすい。メタンとは要するに炭素を核に水素が多重結合したものだから、触媒を使って炭素を外してやれば水素ができる。もちろん炭素はCO2になるので、回収しなければならないが、そもそもメタンとして燃やす時にはそれは燃焼ガスに含まれているので、水素にすることによって増えるわけではない。

ということであくまで一例にすぎないが、畜産の廃棄物からメタンを生成するところまでは既にできている。そこまでの準備が大変だと思っていたトヨタは、タイの、というかCPのポテンシャルに驚かされることになる。あとワンアクションで水素ができるのであれば、水素物流は決して遠くない。次のCOPまでに成果を出すという計画は、CP自身による長年の積み重ねがあってこそである。

燃料電池とBEVトラックの供給が鍵に

となればあと必要なのはハードウェア、つまりクルマである。いすゞと日野がどの程度、幹線物流用の燃料電池大型トラックをタイに送り出せるか? そして中距離用の2トンにおいては燃料電池とBEVトラックの供給が鍵になる。つまりトヨタアライアンスのターンである。

加えて、おそらく国内におけるBEV軽トラの代わりをタイ国内で務めるのは「IMV(Innovative International Multi-Purpose Vehicle)」になるはずだ。要するにハイラックスである。物流の最もベーシックな単位を担うこのハイラックスには既にトヨタによってBEVモデルのプロトタイプが作られていた。筆者はこれにチャーンサーキットのドラッグレースコースで試乗したが、その出来は極めて上質で、物流用のみならず、個人所有車としても大きな可能性を感じた。

トヨタの新型「ハイラックスRevo BEV」(プロトタイプ)
ドラッグレースコースで試乗
運転席

BEVらしく、無振動で強力な加速力を備え、もともとのIMVの出来と相まって、クルマとして極めて完成度が高い。ただしラダーフレームの間に収められるだけ収めたバッテリーの容量には限界があり、具体的な発表はないものの、航続距離は多くを望めない。近距離用途に限ったものになるだろう。そういう意味ではまさにBEVらしいともいえる。

シャシー
エンブレム
ドディオンアクスル

もう一台、今回の式典で発表され、耐久レースでペースカーを務めたのが「IMV 0」(以下、IMVゼロ)である。IMVはそもそもが働くクルマ、つまりワークホースとして生を受けた。アジアの新興国のための働くクルマである。しかしながら、米国からピックアップトラックの文化が流入して、トラックを乗用車として乗る文化が入り込むと少し状況が複雑になった。

「IMVゼロ」

片やトラクターの仲間であり、片やクーペと同じくカッコを付けるためのクルマ。頑丈で質実剛健を求める層と、ラギットファッションのための乗用車を求める層が現れた。もう1つは安全に対する概念の乖離(かいり)である。

「IMVゼロ」はワークホースの基本に回帰したモデル

先進国では、安全は極めて大事であり、利便性よりも明らかに優先される。トラックの荷台にベンチを設置してバス代りなどに使うのは法律が許さない。けれども新興国ではそうではない。そういう合法だか違法だか定かならざる私的な改造車が山ほど公道に溢(あふ)れているのがタイの現実で、そこへ先進国の安全理念を振りかざしてみたところでどうにもならない。その土地ではその土地のルールがあり、彼の地で是とする使い方に従うより他ない。

IMVゼロは、両方の意味でもう一度ワークホースの基本に戻って、現地の人々の使い方に寄り添うクルマへと回帰したモデルである。荷台にバカ高いアオリを立てて、最大積載量をものともせずに天高く農産物を積み上げるも良し、適当なイスをいっぱい付けて定員もよく分からないバスにするもよし、冷蔵庫や冷凍庫を付けて海産物や食肉を運ぶもよし。そういう拡張性の高いトラックの原点に戻った。改造されるのが前提の無駄を省いたベースカーであり、まさにタイの物流改革の礎となるクルマである。

「IMVゼロ」
運転席
真横
後部

もちろん改造幅が広いということは、先進国ではキャンピングカーにしたり、屋台にしたりといった拡張性も同時に備えることになるので、ファッション的ニーズも含めて、日米でも広がりそうである。基本となるシャシーは今のIMV、つまりハイラックスのシャシーを完全にキープしている。ここを変えるとIMVではなくなるから死守する必要があるのだ。

逆に言えば、そのハイラックスにBEVがあるのなら、同じシャシーのIMVゼロでもBEVはすぐ作れる。トヨタ側でもそこまでの準備は済ませていることになる。だから「今できること」なのだ。

余談ではあるが、このタイのプロジェクトのために生まれたハイラックスのBEVとIMVゼロは、先進国でもそれなりに人気を博す可能性が高い。日本でも特にIMVゼロはウケそうな感じを強く受ける。

モータースポーツ活動は今後どうなるか

さて、そして最後にレースの話である。トヨタはこれまで、「モータースポーツを基準にしたクルマづくり」としてもっといいクルマづくりを進めてきた。WRCジャパンでは、それが「モータースポーツを基準にした地域振興」へと発展し、今回タイで12月17~18日に行われた25時間耐耐久レース「IDEMITSU 1500 SUPER ENDURANCE 2022」の出場ではそれが「モータースポーツを基準とした自動車文化輸出」へと広がったと筆者は受け止めている。

カーボンニュートラルは、ともすればモータースポーツを人類の敵にしてしまう。「道楽のために無駄に石油燃料を燃やす環境破壊行為」とレッテルを貼られてもおかしくない。豊田社長はその一歩前で踏み込んだ。カーボンニュートラル燃料を使えば、内燃機関もモータースポーツも敵じゃないという主張を打ち出した。

そのために国内のスーパー耐久にカローラの水素エンジンを出場させ、スバルやマツダ、日産と仲間を募りながら、e-fuelを中心としたカーボンニュートラル燃料でのレースチャレンジを広げていった。

その後、欧州のWRCに水素エンジンのコンセプトカーを持ち込んでデモランを行ったり、今回の様に海外の耐久レースに水素エンジンコンセプトとカーボンニュートラル燃料コンセプトを持ち込んだりという具合に徐々に認知を広げつつある。

今回の参戦は、スタートからの4時間とゴール前の4時間に限った参戦ではあった。その理由は、1年間闘ってきたチームにこれ以上無理をさせたくなかったので、賞典外となる部分参戦にあえてしたのだそうだ。

水素エンジン搭載の「GRカローラ」とCNF燃料を使用の「GR86」ゴールシーン

しかしながら2台のマシンは、走行中、タイのトップチームのクルマと堂々渡り合い、特にGR86のカーボンニュートラル燃料コンセプトは、レース最速ラップタイムをたたき出してみせた。このレースを見たタイの人々にしてみれば、カーボンニュートラル燃料はガソリンの代用品ではなく、CO2を排出しないばかりか、従来の燃料より速く走れる未来の燃料というイメージが刷り込まれたかもしれない。

実際の話をすれば、それは燃料のせいではなく、日本のレースで磨かれてきたレース車両の完成度と、ワークスドライバーの腕があってのことなのだが。

トヨタのタイ戦略はどこへつながるのか

さて、こうしてトータルでトヨタのタイ戦略を追ってきたわけだが、その先は一体どこへつながるのだろうか?

今回のケースを筆者の角度で見ると、トヨタはまずCPグループを押さえた。CPを押さえるとタイが動く、そしてCPの総帥である謝国民(タニン・チャラワノン)氏は、その名前からも明らかな様に華僑系である。ASEANには華僑が経済を牛耳っている国はたくさんある。シンガポールもマレーシアもインドネシアも程度の差こそあれそういう国だ。タイでの成功は華僑ネットワークを通じてASEAN各国に波及する可能性が高い。タイが変わればASEANが変わる。

旧来の日米欧の3局。これに中国を加えるか加えないかは今後の中国経済次第ではあるが、仮に4局として、ポスト中国の時代にこれにどうやらASEANが加わることになる。5局のうちの1つは大きい。

ここで水素が必須になれば、ASEANを市場として狙いたい全ての自動車メーカーは、水素のコマを持つしかなくなるわけだ。そしてそのコマを持ってしまえば、水素を否定する意味はなくなる。これは欧米の自動車メーカーにとって魅力的ではなくなった日本のマーケットでは成立しない話だ。世界の自動車メーカーのトレンドがタイを起点に変わるかもしれない話のこれは始まりなのだ。

筆者はちょっとゲームのリバーシを思い浮かべた。CPはリバーシ盤のすみっこだ。角を取ってしまえば、ゲームは圧倒的に有利に進められる。つまりすみっこを起点にして盤のすべてのコマをひっくり返す。もちろん、それはまだルートマップにすぎない。できるかできないかは誰にも分からないが、一応うまくいけばそうなるという仮説はたったことになる。

「IDEMITSU 1500 SUPER ENDURANCE 2022」にて

実現するかどうかはともかく、これだけの大きな絵図が引けた意味は大きい。そういう話なのだ。さて、筆者としてはかなり一生懸命見てきたものを書き記したつもりではあるが、果たして日本政府の然るべき人々にこれが伝わるだろうか? もちろん筆者が書いたものでなくても良い。他の書き手や新聞記者たちが書いたものからでも良い。タイで何が起きているか、そしてトヨタがどう考えているか。それがちゃんと伝わるかどうかが日本の未来を決める可能性は高い。あとで振り返った時、23年がターニングポイントだったねぇということにならなければ良いのだが。

取材協力:トヨタ自動車

 

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