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大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」いまだからウラ話を明かそう!

大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」いまだからウラ話を明かそう!

銀行はあれから「安泰」ではなくなった

かつて銀行員(バンカー)は花形の職業だった。中でも、大蔵省(現・財務省)との折衝を行うMOF担(モフタン)は、エリートバンカーの象徴としてもてはやされた。しかし、そんな銀行員と大蔵省当局との「癒着」が明るみに出たのが1990年代のノーパンしゃぶしゃぶ事件だ。逮捕者まで出す一大騒動に発展した同事件こそが、いまに続く銀行大波乱時代の幕開けとなったのだ。

いまや銀行不要論まで飛び出すまでになった現代、そもそも銀行はどうしてここまで「凋落」してしまったのか。その源流はこの事件にさかのぼることができるともいえる。そこで今回は、当時大蔵省に在籍した元大蔵官僚で、安倍晋三首相のブレーンとしても知られる嘉悦大学の高橋洋一教授と、新作小説『よこどり 小説メガバンク人事抗争』で、メガバンクの実像に独自の切り口で迫った小野一起氏が対談。知られざる「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」のウラ側とメガバンクの未来像を語り明かした――。

対談撮影/岡村啓嗣 編集協力/日比野紗季

向島で遊んでいた人たち

小野 日本の銀行史を振り返ると、1990年代後半にいよいよ不良債権問題が限界を迎えました。97年には北海道拓殖銀行が破綻、山一證券も自主廃業に追い込まれました。そして98年には日本長期信用銀行の経営破綻、一時国有化されることになりました。

高橋 私の感覚では、私が金融検査をした93年、94年の状況を考えると、よく拓銀や長銀が4年ももったなと感じます。もっと早く潰しとけば楽でした。公的資金の注入額も少なくて済んだはずです。

小野 やはり問題を先送りしたいという構造が、銀行、大蔵省、政治の中にあった。三者一体の先送り構造が、問題を深刻化させましたね。

高橋 不良債権については先送りの意識もあったでしょうが、大蔵省の幹部はただ単に理解不足だったと思います。そもそも私は繰り返し不良債権問題処理のために、銀行に引当金を積み増す必要があることをしっかり説明しましたけど、その当時の銀行局の幹部はちんぷんかんぷんな顔をしていました。

向島で銀行員と一緒に遊んでいるだけで、ちっとも勉強していなかった。せめて、遊んでいる合間に、少しぐらい勉強するのが普通だと思いますけどね。本当に遊んでいるだけだった(笑)。

小野 簡単に儲かるシステムが永続するという風に、銀行員も大蔵官僚も思い込んでいた。というか、思い込みたかったってことでしょうね。

高橋 銀行局の幹部のその後の役人人生はみんな不遇だよね。そりゃそうでしょ。遊んでいるだけだって、バレちゃったから。

ノーパンしゃぶしゃぶ事件の舞台裏

小野 ノーパンしゃぶしゃぶ事件と呼ばれた大蔵省を舞台とする接待事件が明るみに出たのは1998年です。東京地検特捜部に大蔵官僚らが逮捕され、当日の三塚博大蔵大臣や松下康雄日銀総裁が引責辞任する展開になりました。ここで、銀行と大蔵省の癒着構造が暴かれることになったわけです。

これがきっかけで、大蔵省から銀行と証券の関連業務が分離され、金融監督庁(現金融庁)ができ、大蔵省は財務省になりました。大きな転換点でしたね。

〔photo〕gettyimages

高橋 ノーパンしゃぶしゃぶ事件は、ある意味で傑作でした。大蔵省の内部調査で、銀行や証券会社と遊びまくっていた官僚の実態が明るみにでた。私は、接待にはあまり行かなかった方なんですよ。でも、その内部調査が本格的に始まると、いろんな先輩から電話がかかってきた。『高橋くん、何月何日だけど、俺たち、接待されたりしていないよね』って。

そういう確認の電話があった。でも、私からすれば行っただろ〜って(笑)。要は、内部調査に対して、接待されたって言わないでくれってことでしょう。おかしくなっちゃいましたよ。そもそも年中、接待されていた人が、まったく接待されていないっていうウソは無理があります。私が黙っていても、接待漬けにされていた人は内部調査でバレてしまいましたね。

小野 そう言えば証券局総務課の課長補佐の人も逮捕されました。彼は先生の……。

高橋 そうです。彼は私の後任です。

さすがに後任が逮捕されたのはびっくりしました。結局、私と何が違っていたかは興味がありましたね。なぜ、彼が逮捕されて、私はセーフだったのか。どこまで、やったら東京地検に逮捕されるのか。ちなみに彼は独身だった。だから、土日はずっとゴルフの接待を受けていた。その見返りに証券会社に様々な便宜を図ったってことになり収賂罪が成立しちゃった。

私はすでに結婚していました。そんなこともあって、接待の数が全然違うということだったらしい。でも独身だったら同じように接待漬けになっていた可能性もあった。そう考えると人生は、恐ろしいです。

 

接待の数と金額

小野 それは危なかったですね。省内調査を参考にしながら検察が、接待の数や金額なども考慮して、逮捕まで踏み切るかを判断していたということでしょうか。

高橋 その辺の特捜部の基準は、よく分からないですね。ただ、あの時は、特捜部の狙いは証券局長だと思われていた。だから彼は気楽な気持ちで特捜部に行って事情聴取を受けたのに、帰ってこなかった。『ちょっと行ってきます』って感じで、机の上もそのままだった。かなり衝撃的でしたよ。

小野 当時の証券局長って長野庬士さんですよね。

高橋 そうそう。特捜部は、長野さんを捕まえたいがために、部下の彼から事情を聴こうとした。当時は大蔵省内でそう受け止めた人が多かったですね。彼は総務課企画官なので、長野さんの予定を把握できる立場にあったから捜査線上に浮かんで、そのまま逮捕された可能性もあると思います。

小野 でも一方で、長野さんはスーパー優秀な大蔵官僚だったというイメージもあります。

高橋 それはその通り。長野さんは圧倒的にできる人でした。接待を受ける人って、実はできる人なんです。銀行や証券会社もできない人を接待しても意味がない。長野さんは、仕事をバンバンやる人だった。

小野 だから、97年に山一證券の自主廃業の際には、長野さんが中心になって問題を処理していましたね。

高橋 そうです。ただ、ちょっと別の角度から話をすると、証券会社の破綻処理は、預金がないから気楽といえば気楽なんですよ。証券会社を潰したところで、持っている株券を返せばいい。それだけなんです。株券などの顧客の資産は分別管理されていますから、株券が投資家に戻ってこないことはないです。

小野 それに対して銀行が破綻すると大変です。金融システムが揺らいでしまいますから。

銀行がつぶれるとどうなる…?

高橋 銀行が潰れると、決済が止まってしまう。企業や個人で資金のやり取りができなくなる可能性が出てくるわけです。これは、経済活動に影響が出ちゃう。それに、多くの企業が銀行から融資を受けている。日々の資金繰りを銀行からの融資に依存しているから、銀行の機能が停止してしまうとパニックが起こるわけです。

小野 企業の場合は健全な経営をしていていも、銀行が破綻した余波を受けて資金繰り破綻してしまうかもしれない。これは大変な問題です。

〔photo〕gettyimages

高橋 そうなんですよ。連鎖的に企業が潰れちゃう可能性があって、銀行が破綻する場合、政府はより慎重な対応が必要になります。

小野 政府は、金融システミックリスクを考えながら問題を処理しないといけない点に難しさがあります。

高橋 それはそうなんですが、あまりシステミックリスクって言い過ぎるのも問題ですよ。1つの銀行からしか融資を受けていないという企業はあまりありません。だから、多くの銀行が一気に潰れなければ案外大したことはない。

小野 そう言えば、北海道拓殖銀行は、公的資金注入もなく、国有化もなく、そのまま経営破綻してしまいました。

高橋 あれはひどかったですね。

高橋 そんなこともあって、ゆっくり処理を進めたのかも知れません。私の感じだと、93年か94年に潰れてもまったく不思議ではなかった。北海道の銀行なのに関西の会社にまで融資をしていた。これはひどい状況でした。経営はガタガタですよ。

銀行の「生命維持装置」

小野 98年に、経営破綻した日本長期信用銀行の場合は、一時国有化され公的資金で債務超過の穴埋めをしました。その一方で翌年の99年には、まだ経営破綻していない多くの大手銀行に予防的に公的資金を注入、税金の力で銀行バランスシートの健全性を高める施策を打ちました。

〔photo〕gettyimages

高橋 それは拓銀の経験で、経営破綻は日本経済に与えるダメージが大きいことが学習されていたからでしょう。予防的に公的資金を注入して、銀行が経営破綻するリスクが軽減できるならそのほうが良いという判断ですね。

小野 2008年のアメリカのリーマン・ショックの時にも感じたのですが、結局リーマン・ブラザーズという巨大な証券会社を潰さないとアメリカでも金融機関に公的資金を入れるのは難しかった。なぜ巨大な銀行や証券会社だけが政府に救済してもらえるのかという国民の不満を抑えるのは、政治的には難しいですよ。リーマン・ブラザースが潰れて世界的な経済危機が起きて、『金融機関は公的資金で救済しないと、国民の生活も大変なことになる』という学習と理解がないと金融機関に公的資金はなかなか注入できません。

そういう意味では拓銀や長銀が破綻して大変なことになったという認識があって初めて、その他の大手行に公的資金を注入できたという印象があります。

高橋 率直に拓銀と長銀は潰しやすかったですね。93年か94年の私の資産査定では、すでに破綻状態でしたから。生命維持装置外せば終わるというわかりやすい世界です。

小野 生命維持装置を外して長銀を潰すことで、金融システミックリスクが起こると大変なことになると世論を説得することができたわけですね。

というのも5年の利金債で調達して、それよりさらに長い期間の貸し出しを企業にしていた銀行なんですよ。こんな銀行は、日本にしかない。金融自由化の中ではとてもじゃないが生き残れない仕組みでした。

銀行ビジネスはどんどん細っていく

高橋 実際、理財局時代に私は『長期信用銀行はいずれなくなります』と理財局の幹部に言いました。幹部は目を白黒させていましたがね。

でも、いま歴史を振り返れば長銀も日債銀も潰れたし、興銀も合併してみずほフィナンシャルグループになって、長期信用銀行をやめた。やはり無理だったんですよ。大蔵省は興銀にだけは政府保証債の主幹事で圧倒的な独占的地位を与えていたから、少し長く生き延びられたけれど、長銀と日債銀はあっという間に潰れました。

〔photo〕gettyimages

小野 僕は1989年に社会に出ましたが、その時は興銀や長銀はトップクラスの人気でした。普通の銀行やメーカーに就職する連中とは違うというプライドを持っていましたね。

高橋 長信銀に関わる話で私が大蔵省の中で、褒められた話があるんです。大蔵省は財政投融資の資金でずっと長信銀が出している金融債を買っていたんです。ただ、私が理財局にいる時、この金融債を投資先から外したんです。

あのまま金融債に投資していたら長銀と日債銀が破綻した時に、政府は大きな損失を抱えることになりました。そうなっていたら、大蔵省は相当格好悪かったと思いますよ。

小野 考えてみると社債のようなものを銀行が出して企業に融資をするならば、企業が直接社債を出して資金調達すれば良いという話になりますよね。

高橋 その通りです。金融機関というのは、企業と市場や預金者の間に入って儲けるのが基本です。でも、これは市場化が進むと基本的には儲からなくなりますよ。ビジネスとして成立しなくなる。

高橋 そうです。だから、間に入って鞘を抜いて儲ける仲介ビジネスは、いずれできなくなりますよ。これは金融に限ったことではありません、これは、今日のキーワードですね。

「3メガバンク」だって安泰ではない

小野 銀行でいえば、かつては金利や店舗が規制された世界で確実に儲けられる仕組みがあった。それが、どんどん規制が外れていくプロセスで、利益が細っているわけですね。

高橋 長信銀がなぜ滅びたのかをきちんと理解すれば、これから中抜きがどんどん進むことを予測できなければいけない。あと銀行の人たちは不良債権問題で危機に陥った時、もっと知恵を出して、どうやって付加価値を生み出すかを考えないといけなかった。私にはいまの銀行員はさぼっているように見えます。

小野 ただ、大手銀行の再編がガーッと進みました。かつては大手20行体制でしたが、今や3大メガバンクとりそなグループ、それに三井住友信託の体制になりました。

高橋 3大メガバンクの体制も危ういと私は思っていますよ。

小野 それはその通りです。面白ものを作って、付加価値を生まなければ、マスコミも中抜きされて、将来を描けなくなるでしょうね。

▼4月13日(月)『よこどり 小説メガバンク人事抗争』発売 著者:小野一起

【内容紹介】

自分を失った男たちへのレクイエム!
組織は、あなたからどこまで奪うのか!

メガバンクを舞台に「失われた30年の真因」を問う、緊迫のエンタテインメント。

「細部の圧倒的なリアルさ。銀行小説の新たな金字塔だ」――楡周平(作家)
「失われた30年の真因と処方箋が鮮やかに浮かび上がる」――冨山和彦(経営共創基盤CEO)

【ストーリー】

AG住永フィナンシャルグループの広報部長、寺田俊介は記者とのインタビュー中に
社長の竜崎太一郎が漏らした一言から、自らの出世の可能性を嗅ぎ取る。
吸い寄せられるように竜崎に服従する寺田は、経営難に転落した大手不動産をめぐる情報戦や大手証券との再編、バランスシートの膿、竜崎と相談役の人事抗争…と次々に訪れる難題に直面。掟破りの手段へと手を染め、メガバンクを覆う深い闇へと足を踏み入れていく――。

元共同通信日銀キャップの著者が本作『よこどり 小説メガバンク人事抗争』で巨大銀行の仁義なき権力闘争に迫る!

【著者】

小野一起(おの・かずき)

本名、小野展克(おの・のぶかつ)。1965年、北海道生まれ。慶應義塾大学卒。共同通信社の記者として、メガバンクや中央省庁等を担当、経済部次長、日銀キャップを歴任。現在は名古屋外国語大学教授、世界共生学科長。2014年に『マネー喰い 金融記者極秘ファイル』(文春文庫)で作家デビュー。本名の小野展克で『黒田日銀 最後の賭け』(文春新書)、『JAL 虚構の再生』(講談社文庫)など経済系のノンフィクションの著書多数。

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