スポンサーリンク

データはありません

伊藤詩織氏、杉田水脈氏を訴えた「いいね訴訟」で控訴審判決!?

勝訴の伊藤詩織氏 山口氏への謝罪が先だろう

The following two tabs change content below.

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 ジャーナリストの伊藤詩織氏(33)が20日、名誉感情を害されたとして、衆議院議員の杉田水脈氏(自民党)に対し、損害賠償を求めた裁判の控訴審で一部勝訴の判決を受けた。二審の東京高裁が原審の判決を変更し、請求の一部55万円を認容したもの。一方で伊藤氏は元TBSワシントン支局長の山口敬之氏から名誉毀損などの不法行為があったとして反訴を提起され、55万円の支払いを命じられており、被害者ポジションの強調には違和感を覚える人は少なくないと思われる。

■いいね訴訟で控訴審判決

伊藤詩織氏(2021年9月、撮影・松田隆)

 伊藤氏が杉田氏を訴えた、いわゆる「いいね訴訟」は、自身を批判するツイッター上の投稿に杉田氏が「いいね」を押したことで名誉感情を害されたとして220万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴したもの。2022年3月の一審判決では「いいね」には幅広い感情が含まれており、好意的な感情を示すこと以外の目的に使われることもあると指摘した上で、杉田氏に加害の意図が認められないとして請求を棄却。

 この日20日の控訴審判決では、杉田氏が2018年6月から7月にかけて、25件の投稿に「いいね」を押しており、ネットの番組で伊藤氏を批判する言動をしていたことから名誉感情を害する意図があったと認定した。その上で11万人程度のフォロワーがいる杉田氏の影響力を考慮し、賠償責任を認めた

(以上、読売新聞オンライン・伊藤詩織さん中傷ツイートに繰り返し「いいね」…自民・杉田水脈氏に2審は55万円の賠償命令)。

 判決後、会見した伊藤氏は「指先ひとつのハートマークを押すことで、どれだけ誰かを傷つけてしまうかという行為については深く受け止めてほしいというのが、私の気持ちです。」

(YouTube毎日新聞・中傷投稿に「いいね」 伊藤詩織さん逆転勝訴、記者会見)と話した。

 報じられた内容を見る限り、原審と控訴審の判決が正反対とも言える結果を示した理由は、「いいね」を押すことに加害の意図が認められるかどうかの判断が分かれたことによると思われる。ツイッターの投稿に備忘の目的で「いいね」を押す人は少なくないと思われ、必ずしも「いいね」が賛同の意を示すものではないという断りを入れているユーザーは少なくない。原審はそうしたツイッターの事情を含めて杉田氏に加害の意図が認められないと判断し、控訴審はネット番組での発言や、伊藤氏を批判する25件に押したことで、備忘ではなく加害の意図を認めたということであろう。

 高裁の判断はこの事案に限っては加害の意図が認められるというものであって、一般のユーザーがいいねを押したところで、直ちに加害の意図を認められるわけではなく、また、認められたとしてもフォロワーが少なく影響力が小さい場合は賠償責任を認められるというものではないと思われる。

 杉田氏が上告する可能性があり、この先の展開は流動的ではあるが、常識的に考えて最高裁で再び判断が覆る蓋然性は高くない。

■伊藤氏の発言に対する違和感

「色々な誹謗中傷を受けている時って本当に崖っぷちに立たされてしまうような気持ちになってしまうんですよね。そういった時に誰かから知らない人からハートマークのそういった誹謗中傷を、言葉をハートマークでどんどん押しつけられていくっていう、その指先ひとつの動きだけでも、どれだけ追い詰められるかということは、今回私は身をもって体験したので、そのことについては、これからそういった行為、アクションを起こす時に一度いいねを押す前に考えてほしいことだと願っています。」(

 伊藤氏が杉田氏の「いいね」で名誉感情を害されたことを説明した上で(皆さん、これからは言論空間での行為には気をつけてくださいね)と呼びかけたものと言っていい。高裁から被害を認められた人間の言い分としては、それはそれで好きなように言えばいい。

 しかし、このような発言を聞くと、これまで伊藤氏が元TBSのワシントン支局長の山口敬之氏と争ってきた裁判を取材してきた者としては強烈な違和感を覚える。その違和感の正体を分かりやすく表現すれば(あなたにそんなことを言う資格があるのか)という思いに他ならない。

 伊藤氏は山口氏との裁判で名誉毀損とプライバシー侵害で1億3000万円の支払いなどを求められ、55万円の支払いを命じられた二審判決が確定している。具体的には週刊新潮と伊藤氏の著書「Black Box」での記述が問題にされており、東京高裁は伊藤氏の記述に厳しい判断を突きつけた。

 山口氏との裁判では伊藤氏の一部勝訴ばかりが報じられ、伊藤氏は損害賠償を命じられている事実は、ほとんど報じられていない。そのせいか、判決で伊藤氏の不法行為がどのように断じられたのかを知る者も少ない。

■認定された4件の不法行為

東京高裁(撮影・松田隆)

 東京高裁の確定判決(令和4年1月25日言渡)は、伊藤氏の山口氏に対する不法行為は4件、成立するとした。

 問題とされた記述は以下の2つ。それぞれの記述について、名誉毀損とプライバシー侵害が認定されている。

問題とされた記述・① 酔って記憶をなくした経験は一度もありません。普段は2人でワインボトル3本空けてもまったく平気でいられる私が仕事の席で記憶をなくすほど飲むというのは絶対ない。だから、私は薬(デートレイプドラッグ)を入れられたんだと思っています。(週刊新潮平成29年5月18日号)

不法行為(1)名誉毀損:デートレイプドラッグを使用したとの事実が摘示されれば、控訴人(註・山口氏)の社会的な信用は一層低下する関係にあることからすれば、そのような表現をするのであれば、被控訴人(註・伊藤氏)としても相応に慎重な検討が求められる場面であったことも考慮すると…それを真実と信ずるについて相当の理由があるということはできない。(判決文p88 13行目から21行目)

不法行為(2)プライバシー侵害:「控訴人がデートレイプドラッグを用いたとの事実が真実であるとは認められないから…犯罪行為又はその一部を構成するとはいえず、犯罪行為として問責される余地もない。…デートレイプドラッグを用いたとの真実ではない事実を主張しているとの事実が開披されると、控訴人は、公表を欲しない領域に関し、計画性をもって、より悪質な態様で、本件加害行為を行った者であるとの真実とは異なる印象を周囲に与えかねない…」(判決文 p145 7行目から16行目)

問題とされた記述・② インターネットでアメリカのサイトを検索してみると、デートレイプドラッグを入れられた場合に起きる記憶障害や吐き気の症状は、自分の身に起きたことと、驚くほど一致していた。(Black Box p66 7行目から8行目)

不法行為(3)名誉毀損:「…記述内容によって摘示された事実は、控訴人の社会的評価を低下させると認められる(この点は、被控訴人も争うものではない。)…デートレイプドラッグを飲ませたとの事実を認めるに足りる的確な証拠はなく…その重要な部分について真実であるとは認められない。」(判決文p119 8行目から25行目)

不法行為(4)プライバシー侵害:「デートレイプドラッグを用いたとの事実を主張するに当たって、相当に慎重を期することが求められていたにもかかわらず、その配慮に欠けたといわざるを得ない。…デートレイプドラッグを用いたとことを公表した部分は、控訴人のプライバシーを違法に侵害し、不法行為に該当する…。」(判決文 p165 13行目から20行目)

■伊藤詩織さん いい加減気付いたらどうか

取材を受ける伊藤詩織氏(2021年9月、中央・背)

 このようにデートレイプドラッグを知らない間に飲み物に混入されたと主張した事実が山口氏の名誉を傷つけ、プライバシーを侵害したと認定されている。

 特に、①については1日で薬が体外に排出されてしまい、服用を裏付けることは困難である趣旨を聞いて客観的に裏付けることは不可能であると知っていたこと、記事になるまでに山口氏が不起訴処分となり、検察審査会への異議申し立ても棄却された事情があること、その間に相応の調査もできたにもかかわらず、服用させられたとする根拠を示せていないとしている。

 要は根拠のない思い込みを、何の調査もせずに思いつくまま取材に対して語り、書籍にしていると断じられたに等しく、ジャーナリストとして致命的とも言える認定を受けているのである。

 こうした事実を見た時に、杉田氏の行為と伊藤氏の行為のどちらが悪質と感じるか。多くの人は同じ感想を持つと思われる。

 もちろん、伊藤氏がこのような不法行為の実行者であることを理由に「杉田氏から被害を受けても泣き寝入りしろ」などと言うつもりはない。ただ、杉田氏の行為を許し難いと思い、多くの人にツイッターの使い方を気をつけなさいと注意を喚起するのであれば、まず、自らが行った不法行為について真摯に反省し、山口氏に謝罪すべきではないのか。

 伊藤氏があくまでも望まない性行為を強要されたというのであれば、山口氏が「合意があった」と否定していても判決が「加害行為」と認定しているのであるから、被害者として振る舞うのは勝手である。しかし、不法行為については、公表した事実そのものについては伊藤氏も争っておらず、司法の判断は「あなたの公表行為は不法行為」としたのであるから、それは真摯に受け止めて謝罪するのが筋。

 ジャーナリスト以前に人として為すべきことをしないために、多くの人から批判の声が集まるというごく単純な因果関係に、いい加減気づいたらどうかと思う。

スポンサーリンク




ブログをメールで購読

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。

2,402人の購読者に加わりましょう

この記事が気に入ったらフォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事