「文春に出てた巨人坂本選手のネタ、取り扱いNGです。巨人からこれを扱ったら、長嶋さん関連の情報を渡さないとなっているそうです…」
このメッセージは、全国ネットで放送されているあるワイドショーのスタッフが、全員が共有するグループチャットに流したものだ。「巨人坂本選手のネタ」とは、9月10日に文春オンラインが報じたプロ野球の坂本勇人選手と一般女性A子さんの中絶トラブルのことである。
この件については、今年8月に性加害スキャンダルが週刊新潮で報じられた俳優の香川照之の記事の「後追い」報道が各テレビ局のワイドショーやスポーツ紙を賑わせたのに対して、全テレビ局、全大手紙が「沈黙」を保っており、SNSなどでは「プロ野球選手の不祥事にはメディアの忖度が激しいな」などと批判が集まっている。
今回文春オンラインが入手したチャットのメッセージはそうした大手メディアの「忖度」が常態化している実態を表したものと言えるだろう――。
妊娠中のA子さんに対して「中出しし放題だもん」
文春オンラインは9月10日に、坂本勇人選手と数年にわたって関係があった一般女性A子さんの親友による「告発」を報じた。
A子さんは友人に誘われた飲み会で坂本と出会い、月に1~2回坂本の自宅で逢瀬を重ねる関係になった。出会った当初はA子さんは坂本と良好な関係を保ち、A子さんも親友にのろけ話を聞かせていたという。
しかし次第に坂本のA子さんに対する扱いはぞんざいになり、深夜の呼び出しや避妊具を付けない性交などの過剰な性的要求をするようになった。A子さんはアフターピルを服用して自衛策をはかっていたがついに妊娠してしまう。生みたいと主張するA子さんに坂本は中絶を要求し、「おろすならおろすで早い方がいいやろ?」などの言葉をかけた。
A子さんは精神的に追い込まれ、自殺未遂するという事態まで発生してしまった。妊娠中のA子さんに対しても「中出しし放題だもん」と性行為を求めるなど、坂本のあまりにも自分本位過ぎる言動は驚くべきものだった。一連の言動は単にプライベートで起きた男女間のトラブルというよりも、女性の尊厳を踏みにじるものであり、人気プロ野球選手の「品格」が問われるものだった。
球団に事実確認を求めると、「その女性の方には、坂本本人が『申し訳ない』とお詫びを伝えたうえ、互いの代理人弁護士を通じて●年●月(編集部注:A子さんのプライバシーを鑑み、具体的な時期を伏せています)に示談しました。今年になって女性から複数回、連絡がありましたが、示談後のことだったことから、互いの弁護士の間で再度協議し、本人同士が直接やり取りしないよう申し合わせました」と一連の事実は認めたが、坂本に対する処分は公表されていない。
「巨人の広報部がNGを通達することはありえない」
この記事が配信されたのが9月10日午前11時。冒頭のメッセージはそのわずか3時間後の14時23分に投稿された。メッセージを見たワイドショースタッフが明かす。
「これまでもジャニーズのタレントの不祥事が週刊誌などで報じられた際にも“取り扱いNGです”というメッセージが届くことはあったので、坂本に関するNGメッセージが回ってきたときも『これもか。仕方ないね』と、諦めムードが現場で漂いました。ただ、異例だったのは今回は『もし扱ったら長嶋さんの情報が入らなくなる』という“交換条件”がついていたこと。普段だったら、理由がわざわざ書き込まれることはありませんから。
長嶋さんについては、数日前に都内の病院に緊急搬送されたなどと報じられ、健康状態が注目されていました。その情報が巨人にシャットアウトされ、もし仮に長嶋さんがお亡くなりになった時に、弊社だけ情報が入らない、いわゆる“特オチ”の状態になったら……そう考えたら、坂本の件を扱えないのも仕方がないのかと思いました。ただ、わざわざ、こんな背景事情まで明かして『お前ら、わかっているよな』と言わんばかりに現場に周知徹底を図るなんて、上はいつも以上にナーバスになっているなという印象を持ちました」
他局や他紙でもこうしたNG情報が出回ったかは定かではない。また、実際に巨人が何らかの形で「交換条件」を呼びかけたかどうかもはっきりしない。スポーツ紙の記者は、このメッセージの背景をこう推測する。
「巨人の広報部は百戦錬磨ですから、ハッキリNGを通達したり、ましてや交換条件を提示することはあり得ません。その事実が明るみに出たら『メディアへの圧力をかけていた』と大スキャンダルになりますからね。せいぜい『坂本の件、やるの?』とふわっと圧をかけるくらいでしょう。それを担当記者が正確に忖度して、社内にNGを伝えたのだと思います」
ともあれ、少なくともメッセージが、あるテレビ局のグループチャットに流れ、さもありなんとスタッフがその内容を信じたことは事実で、また、9月16日現在、テレビ局やスポーツ新聞が1社の例外もなく坂本の件をスルーしているのも事実である。報道しているのは出版社系、ネット系のメディアのみだ。前出のスポーツ紙記者が続ける。
「正直、坂本選手の件を報じにくい雰囲気はうちの社にもあります。巨人軍が問題にしていない以上、それをあえて報じるだけのメリットはどの社にもない。今は香川照之さんのスキャンダルの時のように、TOYOTAがCMを打ち切りにしたなど、坂本の件を報じなければならないような『外圧』がヨソからかからないかと待っている状態。もしそんな事態が生じれば、各社横並びで一斉に報じると思いますよ」
大手新聞やテレビ局には、それぞれの球団に同行して動向を逐一取材する「番記者」がいる。その巨人の番記者たちの間では、坂本のスキャンダルは触れてはいけない“タブー”になっているのだという。
「坂本は記事が公開された10日の試合にも出場。翌日の試合でも、3安打の猛打賞を記録するなど、『鋼のメンタル』の持ち主であることを見せつけました(苦笑)。
「グッズを買った金は、ピル代に消えたのか」
番記者たちも坂本の報道については当然知っていたものの、試合後の原辰徳監督の囲み取材では、誰も坂本の件について質問しなかった。そんな周りの“忖度”を知ってか知らずか、原監督も坂本のスキャンダルについては一切触れませんでした。ニュースにできるかはともかく、せめて事実確認くらいすればいいのにとは思いますが…」(同前)
球団関係者が続ける。
「実はスキャンダルが報じられた後も、チームの雰囲気は“通常営業”です。もともと坂本選手の派手な女性関係は有名で、球団側も『明白な犯罪行為でないなら処分しない』というスタンスで乗り切りたいようです。
ただ今回は騒動が大きくなりすぎているのも事実。『坂本のグッズを買った俺の金は、やつのピル代に消えたのか』『坂本が出るなら観戦に行かない』というファンの声も出はじめるなど“不買運動”につながる懸念もあり、球団は世論の動きを注視しています」
メディアへのニュース抑制の事実について巨人に確認すると「坂本本人の件については、示談の際に厳重な秘密保持義務が課されているため、事実関係についてのコメントを差し控えてきましたが、今回のご質問にある情報は全くの誤りであり、事実無根であることを指摘いたします」という回答があった。
現在の「沈黙」が大手マスコミの忖度でしかないとすれば、それが破られる日はくるのだろうか。
「巨人坂本選手のネタ、取り扱いNGです」
ワイドショー制作陣に流れた“忖度チャット”入手「巨人の広報部は百戦錬磨ですから…」