参院選(7月10日投開票)は、自公与党が優勢に戦いを続けている。報道各社の序盤の情勢分析では、圧勝ムードさえ漂っている。ただ、ここに来て、不安なデータも見られる。岸田文雄内閣の支持率が一部で急落しているのだ。背景には、ロシアのウクライナ侵攻を受けた円安・物価高対策をはじめ、岩盤保守層を失望させた防衛事務次官人事、醜聞を報じられた議員への対応などもありそうだ。中終盤に向けて、風向きの変化を警戒する声も上がり始めた。
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「物価高に万全の体制で臨む」「憲法改正をはじめ、未来への課題に挑戦する」「歴史を画する課題を乗り越えて日本を元気にするために、政治の安定が求められる」「日本の未来を切り開けるのは自民党と公明党しかない」
岸田首相は公示後、精力的に応援演説を行い、こう訴えている。ドイツで26日午後に開幕したG7(先進7カ国)首脳会議では、中国による「力による一方的な現状変更の試み」は認められないと強調した。
夕刊フジの情勢分析を含め、現状で自公与党は順調に議席を伸ばしそうだ。ただ、異変の兆候がある。
毎日新聞の特別世論調査(25~26日実施)で、岸田内閣の支持率は41%と、5月21日実施の調査から12ポイントも急落したのだ。
読売新聞の最新世論調査(22~23日実施)でも、内閣支持率は57%と、3~5日の前回調査から7ポイント下落。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)や、共同通信の最新調査でも5ポイントほど下がっている。
原因はまず、物価高を含む経済対策にありそうだ。
共同通信の調査で、有権者が参院選で重視する政策のトップは「物価高対策・経済対策」(42・0%)だが、岸田首相の物価高への対応は「十分だとは思わない」が79・6%に達している。
岸田首相は参院選の公示前日(21日)、物価上昇に対応する「物価・賃金・生活総合対策本部」の初会合を開いた。ここで、電気代の負担軽減のため、節電した家庭にポイントを付与する制度をつくると表明した。
この節電ポイントについて、ジャーナリストの有本香氏は、夕刊フジの人気連載「以読制毒」(23日発行)で、「愚策」「(ネット上にも)『ポイントより電気を供給しろ』『国民をなめてんのか』といった怒りの声があふれた」「電力逼迫(ひっぱく)が人の生死を分けることを思えば、既存原発の再稼働に踏み切る決断を望む」と酷評した。
物価高が進むなか、今年度の公的年金支給額が前年度から0・4%減額され、4、5月支給分から反映された。岸田内閣の支持層は高齢者が多いため、経済無策は「岸田離れ」を招きかねない。
防衛政策と人事をめぐる〝懐疑論〟も影響しているとみられる。
日本を取り巻く安全保障環境が激変するなか、岸田首相は5月の日米首脳会談で、「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」と、ジョー・バイデン大統領に約束した。
この防衛費増額の旗振り役となり、年末までに行う「戦略3文書」(=『国家安全保障戦略』と『防衛計画の大綱』『中期防衛力整備計画』)の改定作業でも重要な役割を果たすとみられていた防衛省の島田和久事務次官を退任させる人事が17日、閣議決定したのだ。